ナイル殺人事件のレビュー・感想・評価
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それぞれの愛がある
アガサ・クリスティ原作小説はノータッチ。ライトなミステリー系が好きな人間なので、リメイクでも映画で作ってくれるのが有難い。
前作オリエント急行〜も観たので、こちらも楽しみでした。
犯人については大して驚きはありませんでした。
このパターンか〜→その「パターン」の元ネタこれよな…→すごい作品なんだな…って分かりやすい感想。
愛に重点を置いてて、色んな愛の形があり、そこに引き込まれ、この2時間は退屈しませんでした。そういや誰も死んでないな?と思ったら死んじゃったけど…
助手ポジにそんなことしちゃうの…?安心して観てたのに…?とショックでした。
ポアロのあの聴取がなければ…と少し思いました。
横領については白状早いな!?と思いました。
あとガル・ギャドット、エマ・マッキーがとても美しかったです。ドレスもとても良かったです。
続編お願いします…
できるだけ大きなスクリーンで観るべき
原作はたぶん読んだのだが、子供のころだし、ほぼ完全に忘れてるので犯人探しを楽しめた。
前作のオリエント急行と同様、豪華な雰囲気と映像を楽しむ映画。
豪華、というのは、貧富の差とか、使用人や身分の低い人への理不尽な扱いとか、人種差別とか、現代の倫理観では否とされるような行動も含むわけだが、なぜだかそういう非道い描写も、郷愁を感じさせる。
ピラミッド、ナイル川、アブ・シンベル神殿…悠久の時を感じさせるエジプトの風景の美しさは素晴らしく、もうエジプト行かなくていいかな…、と思ったほど。
できるだけ大きなスクリーンで観るべき。
華やかな結婚式にババーン!とあらわれた「招かれざる客」のジャクリーンは、まるで「眠れる森の美女」のマレフィセント。この映画で一番印象に残ったのがこのシーン。
映像を楽しむ映画、とわりきれば素晴らしい映画だが、ミステリーとして面白かったか、といわれれば微妙。
名探偵もののパターンをある程度知っていれば、正直犯人やトリックに意外性は無い。
でもそもそもがこの原作が名探偵ものの古典なのだから仕方ない。
映画の作り手も、トリックを本気で考えさせる映画としては作ってはいないように思う。
「この殺人はあらゆる可能性を検討しても不可能である」ということが、登場人物たちにも、読者(視聴者)にも十分考えさせて、了解された上で、「The murder is here」と宣言されるのがシビレルのに、それを考えさせる時間はなかったように思う。
原作はどうだったか知らないが、この殺人のトリックと犯人は納得感が薄い、と感じた。
まず、そもそもの計画だけど、ジャクリーンにとって、サイモンが裏切る、もくしは心変わりする、という可能性は考慮に入れなかったのだろうか? サイモンはべつにリネットを殺さなくても、リネットと結婚できるだけで十分なお金を手に入れられるのに、わざわざ殺人というめちゃくちゃでかいリスクを負うようなことをするだろうか? サイモンとジャクリーンがふつう考えられないほど愛し合っていたら、考えられなくもないが、そこまで深い絆で結ばれているというような特別な理由(たとえば別の殺人の共犯だとか)は示されていないし、サイモンはお金目当ての要素が強いぽいので、なんだか腑に落ちない。
で、この計画自体も穴だらけな気がしてしまう。ジャクリーンが空砲を打って、サイモンが足を撃たれた演技をした、その後。打たれたという足を無理やり押さえつけられて、傷口見られたらどないするつもりだったんや? 「あれ、撃たれてないじゃん。なんで撃たれた演技したの?」ってなっちゃう。
で、なんとか「痛い痛い!」ってあばれて傷口見られないようにしたとしよう。でもそのあと、普通怪我人を一人ではほっとかないでしょ。サイモンを誰かがずっと介抱する、ということになったら、サイモンが単独行動できなくなってしまう。
あと、最大の謎が、なんで名探偵で名高いポワロがいるのに、計画を強行しちゃったかなー、というところ。サイモンにとって、リネットと結婚してしまえば、それこそ殺人のチャンスはいくらでもあるはずなので、ポワロがいるときに込み入ったトリックを使って殺人を犯すことがどう考えても分が悪い。
まあ、これらの疑問を解決する合理的な理由が映画の中で示されていたのかもしれないが、僕にはわからなかった。たくさんの人物たちがそれぞれどこで何をしているか、把握できていなかったからかもしれない。
そういえば、ポワロがサロメに惹かれた理由もよく分からなかったなあ。
楽しめた
原作も1978年版も見ていません。
知っている人からすると、イマイチという感想もあるのかもしれませんが、僕のようにしらない人間は楽しめます。
オリエンタル急行の最後が今作につながる終わり方だったのに、偶然、来たような話になっていて??でしたが、その辺も伏線だったんですね。
風景の美しさも楽しめます。
愛に纏わるってことではないけど
原作は読んだことないけど、テレビシリーズや旧作は観たことがあり、今回のポアロ(ケネス版)はかなり印象が違う。
そして何よりポアロ自身の人生も絡めた物語。
いろいろな伏線を張り巡らせ登場人物それぞれの物語が炙り出されるのだが、主であるリネットについては表面だけで多くを語られることがないのが残念でした。
それが彼女の不幸な境遇ってことでもあるのかもしれませんが。けど主要キャラなのでも少し膨らませて描いて欲しかったです。特に彼女が結婚を決意させることになった理由とかを。
推理ものとしては面白いけど、どの時点でポアロは複数犯という認識を抱いていたのか?
後半ブークを詰問するときには、犯人の目星(複数犯)が付いていたと思われ、そうした場合ブークが狙われる可能性をポアロは考えなかったのか?この点は疑問が残りました。
ケネスプラナーのポアロだ!
ケネスプラナーが監督、主演
オリエント急行殺人事件に続いての作品だ。
ナイル川の上に客船を浮かべ
結婚披露宴の中の殺人事件、
ワンダーウーマンのガルカドット アーミーハーマ
新鋭のエママッキーは、いいね。
ポアロのまた違う面がみれた。
アガサクリスティ原作には
あったかな?
また
このシリーズを見たいなあ。
だろうね
常々思うのだけれど、なんで友達に彼氏を紹介するのか。そうなるよね…。あいつクズだよ。
しかし、ポアロもいて人が殺されすぎだと感じた。
友達に尋問する時に、夫を同席させたのは芝居なんだろうと思って見てたら…😱
ポアロの髭の意味と恋愛の思い出。ブルースを歌う女性と恋愛するのかなという予感もありつつ、なんか最後までスッキリしなかったです。髭をそったポアロは、今後どうするのか。続くのか?
ちょっとポアロのイメージ違ってた。
今までリメイクやオリエント急行殺人事件などを見たが、英国紳士ぽく声を荒げることなく穏やかに論理的に推理して犯人を特定するのかと思ってたら、詰問するし、銃撃戦あるし、銃口ひとに向けるし、こんなに荒々しい側面もあるのか、とびっくりした。
最初の戦争のシーンは何だったのか、と理解できなかったが、他の方のレビューで戦争で勝利に貢献したものの、爆弾で顔を負傷しひげを生やすことにした、というエピソードがあった。
ここで愛についての布石とポアロの髭の由来が紹介されるが、これが分からないと、戦争のシーン要る!?ってなる気がする。小説ではそれが出てくるのかもしれないが、戦争のシーンはなくして、本編から入ってもっと犯人を追いつめるところをじっくりやって欲しかったな。
それにしても、前半は例の戦争シーンと相関図の説明で、1時間経過した頃にやっと1人目の殺人事件が起こる。これって遅くない?とツッコミながらもその後は怒涛の殺人ラッシュ。一気に殺人と犯人捜しが始まる。
コイツ怪しいから他の怪しい人に目を向けて、さらに戻るという手法はよくあるが、もう少し新情報やあっと驚くラストだったらよかったのに。。。
この作品を選んだのは、たまたま時間が空いたこと、消去法で選んだ。誕生月割引で見れたが正規値段ではちょっとなぁ。。。
失望しました
ポワロ物に全く値しない作品。できれば別題でポワロ物と銘打たずに公開してほしかった。
ポワロ物としては、TV版のデヴィッド・スーシェ主演のシリーズが非常にクオリティの高い作品としてすでにあるために必ず比較されるし、多分この作品はそれを意識して逆の印象を与えようとした作品なのだろう。
結果として全てが中途半端。
例えば、最初のクラブのシーンでポワロがプチフールの数を偶数にすることにこだわるのに、次のスフィンクス前のお茶では1個だったり、口ひげのエピソードが劇中では全く傷跡がなく最後に唐突に出てきてみたりと、ツッコミ所満載。
ポワロの性格描写や仕草、言動や恋愛エピソード、事情聴取等でどなり散らす姿、犯人を追いかけるアクションシーン等、他にも多くの違和感。
ポワロファンとしては大変残念な作品だった。
細やかな女優人の演技※犯人のネタバレあり
原作は未読ながら有名な話なので大体のトリックとかそういうのは知ってた。
その上で驚くのは女優陣の細やかな演技。
特にリネットに「貴女は金銭に執着しないでくれた(うろ覚えなので意訳)」と言われた後ジャクリーンが泣き出してしまうのはこれから先のオチを知ってるとそんなことを言ってくれる友達を金銭故に殺してしまう悲しさが伝わってきた。
ポアロの演技は灰色の脳細胞といった感じは薄い気がしたけど原作を読んでなかったのでそんなに原作との乖離を気にせず楽しめた気がする。
最後の心中の形が美しくて印象に残った。(相棒の右京さんなら必死で止めるんだろうなと妄想したりした)
需要は、あるところには、ある。(超絶ネタバレ含みます)
この「20世紀の遺物感」の半端無さと来たら。いっやー、需要無いですよ、コレ。今の時代。
と言いたいところですが、そうでもないか。
もうね。最初に立ったフラグ、そのまんまの犯人です。悲劇の演出も、なんとなくの予想通りです。今となっては、バレバレ展開も白々しく。なんや、この無能探偵!って軽く罵声を浴びせたくもなりますが。そこは古典・ひな形を作った元祖の作品群の一つ、って事で。
「完全なアリバイ」で最初に容疑者から外された人達。はい、フラグ立ちました。あー、もう、これだよ。問題はアリバイ崩しだよ。って想像しちゃいます。
イケメン友人の登場。あぁ、あぁ、あぁ。彼は「悲劇」の演出のためのキャラなんだ。とか。
無くなるスカーフと赤い絵の具。伏線も親切です。出血の演出?スカーフで絞殺?凶器を包んでナイルへ捨てる?などなどなどと。空想に花が咲きます。
そうなんですよ。コレなんですよ。
伏線、バレバレや無いですか。
フラグ、立つじゃないですか。
それらを、どう繋いで行くのか?
探偵が解き明かして行くのか。
ってのが古典的な推理モノの醍醐味な訳です。
私自身は、アガサ・クリスティにハマった事は無く。小中学生の頃、コナン・ドイルとエドガー・アラン・ポーには夢中でした。ドキドキしがらページをめくる日々を思い出してしまいました。
少年少女や若い人たちにも、そんな気分を味わって欲しい、と思ったりしました。そういう意味では、需要はあるよね。
にしても。
探偵無能の非難は、避けられないかとw
もう少し、どうにかならん?
ヒト、死に過ぎですやんw
「名探偵」としての責任を負って苦悩する「人間ポワロ」に踏み込んだケネス・ブラナー版第二作。
いやあ、皆さんなかなか手厳しいけど、申し分ない出来だったんじゃないでしょうか。
個人的には、今まで観たポアロの映像化では、いちばん堪能できたかもしれないくらい。
自分は必ずしもクリスティの良い読者とは言えないが(全66長編のうち読んだのは20作くらい)、『ナイルに死す』に関しては原作既読で、ピーター・ユスチノフ版も既見。じつは劇団フーダニットによる演劇版(クリスティによる脚本化だが、けっこう長くてたるい)まで観ている。なので、ストーリーの概要と犯人の正体は承知した状態での視聴。
ケネス・ブラナー版の『オリエント急行殺人事件』も当然封切りで観ていて、壮健でガタイの良いポアロが拳銃片手に走りまくっているのはとても斬新だった。ただ、ミステリーとしては「誰に見せるための犯人サイドの演技なのか」に関してうまく説明がつかないことと、「犯人が某人物の関係者だとわかるタイミングがなし崩し」だというのがどうしても納得いかず、残念に感じてしまった部分もある。とはいえラストの「最後の晩餐」演出や、ポアロの泣かせる名演説には胸を熱くしたものだった。
『ナイルに死す』の場合、どうしても『そして誰もいなくなった』や『オリエント急行の殺人』と比べると、本格ミステリの王道を行くプロット立てで、トリックや組み立てがオーソドックスなぶん、作りが地味になってしまう点は否めない。
ただ『予告殺人』や『殺人は容易だ』と同様、「一皮剥くと、表面上見えている穏当な世界とは似ても似つかない愛憎と欲得の世界が裏で渦巻いている」クリスティらしい作品であることはたしかで、表面上のぱっと見と真相のギャップ度は結構高いほうだと思う。
さて今回の映画化はどうだろう。
オープニングは、まさかの第一次大戦時の塹壕シーンから始まる。
まさにウクライナ侵攻の折で、ちょっとどきっとさせられる。
若きポアロが推理力を駆使して戦況を一変させるが、ブービートラップの爆発で上官を死なせ、自身も巻き添えを食って大けがを負う。
原作でも描かれない「口ひげ」誕生秘話。
さらには、このエピソードは悲恋の影も宿す。
近年の安易な傾向では「生涯独身の口ひげの洒落男」はほぼゲイ属性を無理やり付与されるケースが多いことを考えれば、むしろ意外なくらい「ストレート」なポワロ解釈だ。
『オリエント』でも、アヴァンのオリジナルネタ(塀と卵のミニミステリ)をやっていたが、今回の方が本筋のほうの「主題」と密接なかかわりがあって、出来はすこぶる良い。
ここでいう「主題」とは、ひとつは「愛のミステリ」、もうひとつは「名探偵の推理がもたらす結果責任」の問題である。
「愛のミステリ」という部分に関しては、宣伝でもさんざん強調されていることだし、フーダニットにも関わる部分なので、ここで詳細には触れない。
ただ、船客のそれぞれが、困難な事情をかかえる「異形の愛」に縛られており、それを丹念に描出するがゆえに、通例の本格ミステリよりも登場人物の命が「重く」描かれていることは、注目に値する。単なる「駒」であることを超えて自己主張するキャラクターを登場させると、場合によっては本格ミステリとしての稚気や醍醐味を削いでしまう場合もあるからだ。ゲーム感覚だからこそ、人の死を娯楽として扱っても罪悪感なく楽しめるというのが、本格物の本来のありようでもある。だから、人間ドラマと真面目に向き合い、人物をしっかり描きこめば描きこむほど、本格ミステリを成立させるのは難しくなる。
本作では、そのへんの「人の死の重さ」と「謎解き」のバランスが、実に塩梅よく描かれていて、ほんとうに感心した。
「人の死」が重さを増すと、そのぶん作中人物の悲哀は深まるし、ドラマも深刻さを増す。
その結果として、名探偵の責任も増し、二つ目の主題が自然とクローズアップされる。
すなわち「名探偵の推理がもたらす結果責任」の問題だ。
ポアロは本作で、「推理機械」としての自分と、情深い人間としての自分とのあいだで引き裂かれ、複雑な思いに翻弄されながら、事件を解決へと導く。
さらに本作では、複数の人物が「連続殺人」という事態の招来について、ポアロが捜査に携わったせいだと公言し、詰問する。要するに、ポアロが事件を止められなかったせいで被害が増している、あるいは、ポアロが某人物からとある証言を引き出そうとしたために、犯人の殺意に刺激を与えたとして、ポワロはこっぴどく糾弾されるわけだ。
前作『オリエント急行殺人事件』では、「法と正義」「神の裁きと人の裁き」といった重大なテーマがあらかじめ設定されていたが、ポアロ自身はそこまで「名探偵であること」の意義を問われたわけではなかった。
今作『ナイル殺人事件』では、まさに「ポアロが名探偵であること」の意義が再考され、彼の探偵法、自己顕示欲、人とのかかわり方にまで、徹底的にメスが入れられる。
ここまで、真摯に「名探偵であること」を掘り下げねば前に進めない感覚というのは、『ダークナイト』以降、アメコミヒーローものの多くが「ヒーローであること」を掘り下げねば許されない風潮に陥っていることと、実は同根なのだろうと思う。
時代が深まってきて、人々はあっけらかんと「人を裁く」存在を許さなくなったのだ。
ポワロといえども、「ヒーロー」の端くれである以上、正当性に対する批判と自己省察の餌食にならざるを得ない。石坂金田一のころは「しまった!」で済まされていた「連続殺人を止められない名探偵」という自己矛盾にも、当然ツッコミは入れられることになるわけだ。
そんななか、人として覚える共感や後悔といった感情の高ぶりを必死で抑えながら、いつも以上に過激で攻撃的な「探偵」としての尋問を遂行するポアロの描写には、鬼気迫るものがある。
本作におけるポワロの尋問術には一定のパターンがある。
相手がまさかバレていまいと思っている「隠された真実」を、客観的分析によって見抜き、しょっぱなからぶつけ、動揺する相手に対して「あなたには動機も、実行手段もある」と決め付け、いわば「ゆさぶりをかける」というものだ。彼の名探偵としての優秀さと、人を人とも思わないような冷徹さを強調するには、じつにぴったりの描き方を作り手は選択している。
いっぽうで本作では、ポアロが感情的になって、涙目で自らの過去に触れたり、相手の難詰を真摯に受け止めたりするようなシーンが何度も出てくる。ポアロの「名探偵」としての苛烈なペルソナの背後には、傷つきやすい少年のような心と、膨満した自己顕示欲、そして事件関係者に対する深い共感がある。ケネス・ブラナーは、シェイクスピア役者として鍛え上げられた演技力で、彼の「名探偵」としての部分と、「人間」としての部分を、うまく混淆して説得力のある演技を開陳している。
映像化において、これだけポワロの「名探偵」としての苦悩を描いたケースも、これだけ「人間ポアロ」の内実を描いたケースも、なかなかないのではないか(デイヴィッド・スーシェ版にはいくつか似た趣向のエピソードがあったけど、今回のほうが僕は感銘をうけた)。
それだけで、僕としてはもう大満足だ。
映像としては、常に動きのある流麗なカメラワークが印象的だ。
どうしても、本格ミステリ映画は、固定カメラのスタティックな演出を選択することが多いが、本作では、とにかく視点を動かしまくることが常態化している。
冒頭の塹壕戦からハンディカムが激走し、激しく甘美なダンスシーンを経て、結婚パーティでもカメラは人々の間を縫ってせわしなく動き回る。エジプトでは俯瞰と仰角のショットの切り替えがじつにダイナミックだ。そのことでいっそう、周辺の事物の巨大さと雄大さが際立つ。船旅がメインになってからも、観光船内をカメラは縦横に走り回り、常に動的な雰囲気を絶やさない。
この「動」の撮影は、ポワロが「走れて撃てる名探偵」として描かれていることと、むろん無関係ではない。ブラナーは、ポワロものを従来のスタティックな本格ミステリの軛からはずして、ある種の「ヒーロー譚」として現代に再生させようとしているのだから。
本作の撮影にはアングルにも強いこだわりがあって、基本左右どちらかのサイドに斜め向きに人を置いてしゃべらせることが多いのだが、ここぞというシーンになると、ど真ん中にポアロを据えてシンメトリー構図を採用してくる。前作ラストの「岩窟の聖母風・最後の晩餐」シーンが、まさにこのシンメトリー演出の極北だったことを考えると、おそらくブラナーにとって、シンメトリーは強い「力」をもつ「特別」で「とっておき」の構図なのだろう。
総じて本作の体感時間が短く感じられるのは、ブラナーの巧みなカット割りと、飽きさせない移動カメラ&アングル切り替えのおかげだと思う。
というわけで、僕は概ね本作を堪能したのだが、もちろん不満がまったくないわけでもない。
有無を言わせぬ証拠がないのにみんな簡単に落ちすぎだというのはたしかに気になるが、より気になる点として、まあまあポリコレ汚染は甚だしいよね(笑)。
これは作り手の責任というより、現代映画界の「呪い」のようなものなので、致し方ないといえば、致し方ない。むしろ、黒人歌手とそのマネージャーを導入することで、「ブルース」という音楽要素が加味されているのはいいアイディアだ。また、別の重大なオリキャラを投入することで、意外な事件展開を用意しているのも、既読者でも楽しめる新要素としては悪くなかった。原作では若干冗長な窃盗事件に関する顛末を簡略化したのも、映像化としては英断だったと思う。
いちばん個人的にひっかかるのは、原作の「キモ」にあたる部分をあまり強調していない、というか、「武士の情け」みたいに敢えてそこをえぐらずに仕上げていることだが……それについては、この下にネタバレとして書いておく。
とはいえ総体的に見れば、実によくできていたし、役者陣もケネス・ブラナーはじめ、とても良い演技だったと思う。
まだオールスターキャストでできるポワロもの原作はいくつか残っているので、ぜひケネス・ブラナーには継続的にこのシリーズを撮って、ユスチノフ版を超えるくらい頑張ってほしいところだ。
(以下、ネタバレ)
僕は、『ナイルに死す』で最もキモとなるのは、「愛の逆転劇」の部分だと思っている。
すなわち、本作では「寝取った女」と「寝取られた女」の優劣が、ラストで逆転する。
そこが圧倒的にいやらしく、底意地が悪く、すなわちクリスティらしい。
さんざんマウントを獲って、相手をストーカー呼ばわりしながら、「親友」として気に掛けることで憐れみをも掛けていたエラそうな女が、実は最初からただの「カモ」で、食い物にされていて、見下されていて、ゴミのように殺されるだけの存在にすぎず、付きまとっている哀れで頭のおかしい女のほうが、実はすべてを支配し、操り、物語に君臨している。
冒頭のダンスのシーンだって、リネットは「親友から男を奪った」と考え、申し訳ないと思いながらも男をたぶらかす自らの魅力に至極ご満悦のはずだが、その実ほんとうは、単に「あてがわれている」だけのことだ。この話は、ジャクリーンの視点で見なおせば、リネットという存在をどこまでも徹底的に、容赦なく愚弄する作りになっている。
このえげつなさ、この悪意の濃さこそが、まさにクリスティの神髄なのだ。
僕は、リネットという高慢で、世間知らずで、ほんとうは複数の人間から猛烈に憎まれていた女を、もっと容赦なく、完膚なきまでに、叩きのめしてほしかった。そうすることで、『ナイル殺人事件』という物語の包含する「真の恐ろしさ」がいかんなく発揮されるからだ。
だが、ケネス・ブラナーは真相解明のあと、じつにあっさりとジャクリーンと情夫を死なせてしまう。
ある意味、それはケネス・ブラナーの「優しさ」なのだと思う。
ジャクリーンの悪を描き切らない優しさ。リネットを死してなお鞭打たない優しさ。
でも、せっかくこの素材で映画を作るなら、ジャクリーンとリネットの「マウントの逆転劇」をやらないのは、本格ミステリファンとしては、やはりもったいないと思うわけだ。
。
愛に関する映画は悲劇が名作になるって言われる意味がよくわかった。
一人への愛や一人からの愛に呑まれすぎるのは怖いなぁと。人だけじゃなくていろんなコト、モノを愛せる人間になりたいな。
ベタな展開だけど…
アガサクリスティ原作、過去にも映像化されていたようだが、映画館のCMに惹かれて鑑賞しました。
TVドラマの名探偵ポアロは見た事ありましたが…
ガルガゴッド演じる富豪の実業家が、新婚旅行の船で殺害され、船内の密室殺人事件をポアロが解決していくというお話。
『ナイル殺人事件』といえば、ジョン・ギラーミン監督、ポワロ役ピータ...
『ナイル殺人事件』といえば、ジョン・ギラーミン監督、ポワロ役ピーター・ユスティノフの1978年作品を思い出します。
また、デビッド・スーシェ=ポワロの2004年のテレビ版『ナイルに死す』も印象深いです。
さらに、アガサ・クリスティーの原作も2度読んでいるので、犯人は知った上での鑑賞です。
第一次大戦中のベルギー戦線。
エルキュール・ポアロ(ケネス・ブラナー)が所属する部隊は、塹壕の中で命令を待っていた。
下された命令は、次に吹く海風に合わせて煙幕を焚き、総攻撃をかけるというもの。
すぐに風が吹く、と海鳥たちの様子から判断したポワロは上官に進言。
それが功を奏し、突撃は成功裡に完遂した。
が、隊長は敵方が残した罠にはまり、爆死。
ポワロも爆発に巻き込まれてしまう・・・
というところからはじまる物語で、ポワロの髭の由来と愛した女性の話が綴られます。
これは原作にないエピソードで、人間ポワロを描こうという意図で、ポワロものを前作『オリエント急行殺人事件』から観はじめた観客に感情移入しやすくする仕掛け。
と同時に、今回の『ナイル殺人事件』(原題「DEATH ON THE NILE」)の基軸は「愛」だということを印象付ける仕掛けです。
本筋に入って、
亡き父の残した遺産を相続した若き大富豪リネット・リッジウェイ(ガル・ガドット)。
セレブたちが出席するパーティの場で、親友ジャクリーン・ド・ベルフォール(エマ・マッキー)から婚約者サイモン・ドイル(アーミー・ハマー)の職を懇願されて、引き合わされた。
その6か月後、リネットが強奪婚の形でサイモンと結婚。
その新婚旅行でエジプトを巡ることにした・・・
とつづくが、リネット=サイモン=ジャクリーンの三者が揃うパーティの場にポワロを同席させ、さらに、エジプト旅行の冒頭で、前作にも登場したポワロの旧友ブーク(トム・ベイトマン)を介して、登場人物たちの人物紹介をやってしまうというスピーディな展開。
また、原作の登場人物の何人かは統合・整理されて、事件の関係者を減らして、わかりやすくしています。
これが良かったのか悪かったのかは観るひとによるでしょうが、豪華客船上でのリネット事件の際、事態を移動撮影を含めてワンショットで長く撮っているシーンがあり、良く観ると、この時点で観客に犯人がわかるようになっています。
(リネット事件の際、ポワロは寝込んでいるのが、コミックリリーフ的)
その間、またその後も含めて、ポワロ=ジャクリーン間での「愛」についてのやり取り、ブークと某女性との愛の物語、他の乗客間の秘密の愛、さらにはポワロが某女性に感じる愛の予感(これはエンディングエピソードに通じるのですが)と、「愛」「愛」「愛」の重層構造。
台詞の中にも「ラヴ」の単語が溢れています。
ということで、映画は『ナイルに死す(「DEATH ON THE NILE」)』ならぬ、『ナイルに愛す(「LOVE ON THE NILE」)』。
ちょっと胃もたれするぐらいです。
その他、映像的にはゴージャスな風景やセットで目くるめく眩惑感がありますが、風景の多く(ほとんどかも)はCGで、時折、あきらかにグリーンバックへのはめ込みね、と感じるところもあり(ライティングの関係でしょう)、ちょっと褒めるのは難しい。
65mmフィルムを使って撮影したらしいが、セット撮影にはもったいなかったね。
個人的希望ですが、次作は地味(滋味)な愛に関する事件、『ホロー荘の殺人』をお願いしたいところです。
ちょいと薄めなミステリー・クルーズ
78年版・信者で御座います😁
延びに延びた今作をどれ程待ち焦がれた事か…
ん!?この中途半端感は何だろう…
大富豪の相続人リネットを演じたガル・ガドット…桁外れの光輝く美しさは申し分ございません…が、自己中で鼻持ちならない小悪魔さが
圧倒的な美しさに押され
悲劇の中心であるのに薄かったなぁ💦(ガルは大好きです)
ジャクリーン役のエマ・マッキー…間違った一途さに走る怖さを品が良過ぎる彼女に
物足りなさを感じてしまった
78年版のミア・ファローのインパクトが余りにも私の中でキツくて強過ぎて…
(ファンの方ごめんなさい🙏)
ただ、この作品の核である「愛」描きは鬼才プラナー監督からは充分に伝わりましたし
モノクロから始まる冒頭に口髭の秘密…
ポアロ自身の陰…ピリッとする演出は秀悦でしたし
30年代の衣装、音楽…NHK BSの旅番組の様なホテルに蒸気船等のエジプトの雰囲気を感じるセットは申し分無し⭐️
ケネス監督、公開間近の「ベルフェスト」も期待しております!
普通
序盤は少し退屈。徐々に面白くなっていき、最後の方はワクワクしながら見れた。しかし、本と違うのか分からないが情報量が足りない気がする。絡み合った愛憎劇・ミステリー・サスペンス普通に面白いのだが終わり方がちょっと。原作読んでないから、よく知らんけど多分本の方が面白そうな気がする
けっこうよかった
『古畑任三郎』をセカンドシーズンまで見ていた直後で、古畑が一目で犯人を見抜いて詰めていくのに対して、ポアロは無差別に一人一人を詰めていくのが面白い。
最後の最後まで犯人が分からなかった。人が次々死ぬのも意外で面白い。
説明を聞けばなるほどと思うのだけど、犯人を見抜いた決め手が何だったのかよく分からない。絵具などがヒントになっていたけど、どこでそれをトリックに用いたことに気づいたのだろう。
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