「時代を越えて「ありきたり」になった名作」ナイル殺人事件 といぼ:レビューが長い人さんの映画レビュー(感想・評価)
時代を越えて「ありきたり」になった名作
本作は今から85年も前に出版されたアガサ・クリスティーの『ナイルに死す(原題:Death on the Nile)』という小説が原作です。アガサ・クリスティーは「ミステリーの女王」と呼ばれるほどの名作家ではありますが、85年も前の小説故に「古さを感じるのではないだろうか」と、鑑賞前は若干の不安を感じていました。
実際に鑑賞した感想ですが、「意外と悪くないが、ありきたりに感じる」と言った感じです。85年前の作品ではありますが、「古さ」は抱きませんでした。しかしながら殺人のトリックなどのミステリーとしては「ありきたり」に思えてしまいます。これは古き良き作品に絶対付きまとう呪いのようなものなので仕方ないことではありますが、小説や映画に限らず『ナイルに死す』のフォロワー的な作品は無数に存在します。そのため随所で「どっかで観たことあるな」という既視感を覚えるんですよね。私は原作未読なんですが、ミステリー作品は一時期ハマって小説や漫画を読み漁っていた時期があったので、なおさらそう感じてしまったのかもしれません。
あと、「これは映画オリジナルの設定か?」と違和感を抱く部分が何ヵ所もあったのですが、調べてみると原作には無いオリジナル設定でした。原作では白人のキャラクターが本作では黒人になっていたり、ただの友人という設定だったキャラが同性愛カップルになっていたり。こういう行き過ぎたポリコレ配慮は鑑賞の際にはノイズになり、私は心底不愉快に感じます。こんなのをポリコレ配慮とは言えません。ポリコレ描写をノルマとして見ているような薄っぺらい描写です。昨今の映画業界の悪い部分だと個人的には思っています。
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舞台は1930年代。富豪の娘である大金持ちリネット(ガル・ギャドット)とプレイボーイのサイモン(アーミー・ハマー)の結婚を祝うパーティーが行われた。パーティーの参加者たちは、エジプトのナイル川を巡る豪華客船に乗り込み優雅なパーティーを楽しんでいたが、リネットの親友でサイモンの元恋人であったジャクリーン(エマ・マッキー)も乗り込んできたことで雰囲気が一変する。
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元々交際していたのはサイモンとジャクリーンであったが、サイモンは金持ちのリネットに乗り換え、2人は結婚してしまう。ジャクリーンはストーカーとなり二人をつけ回し結婚記念のパーティーが行われている豪華客船にまで乗り込んでくる。そしてついに、リネットが凶弾に倒れる殺人事件が発生してしまう。動機で言えば間違いなくジャクリーンが犯人なのだが、彼女には鉄壁のアリバイがあった。
ミステリー作品としては良くある展開ではありますが、事件の解決よりもどちらかと言えば「愛」というものにフォーカスして描かれている印象があります。もちろん恋人やパートナーへの愛もそうですが、親子愛とか友情とかもしっかり描かれていて、ここが私としてはかなり高評価ですね。
ミステリーとしては、先述の通り「どこかで見たようなありきたりなもの」というのが正直な感想です。もちろん面白いんですけど、やはり原作が85年も前の作品であるが故に「当時は新鮮だったんだろうけど今となっては使い古されたもの」という印象が残ります。巻き込まれサスペンス映画の元祖『北北西に進路をとれ』とか、ワンカット映画の元祖『ロープ』を観た時と似た感覚ですね。現代では撮影技術も向上しているし、多くの作品を経て手法が更にブラッシュアップされている上位互換とも呼べる作品が多く存在します。それ故に、その道を切り開いた元祖の作品は、何十年も経過してから観てしまうと、ありきたりだと感じてしまいます。
そして、私が一番気に入らなかったのは「過剰なポリコレ表現」。これは最近の洋画で個人的に許せない部分なんですけど、原作の設定を捻じ曲げてまで多人種のキャスティングや同性愛描写を出すのはいかがなものなんでしょうか。原作が執筆された年代や舞台となる時代背景を考えれば、別に登場人物全員が白人である方が自然で、逆に黒人やアジア系や中東系の人種の人がいる方が不自然です。ノルマのように登場する有色人種や同性愛者に私は辟易しました。こういうポリコレ配慮は作品を鑑賞する際にはノイズにしかならないので、本当にやめてほしいです。
全体的に見れば面白かったんですが、見飽きたようなありきたりな展開と観たくないような過剰なポリコレ描写がノイズになる映画でした。