「無条件の愛」マロナの幻想的な物語り Imperatorさんの映画レビュー(感想・評価)
無条件の愛
圧倒された。そのアートに・・・。
映画館の大画面で観ることができて(@東京国際映画際)、本当に良かった。
邦題は、内容に必ずしも合っているとは思えないが、原題がそうなのだから仕方ない。
言語はフランス語だが、監督はルーマニア人女性で、アニメのみならず実写系まで手がける、すでに国際的にも有名な人らしい。
ストーリーは、主人公の一人称で語られる。
シンプルだが深みがあり、犬好きの人は、きっと感涙だろう。
主人公は、サバサバしている性格のわりには、いじらしい女の子(犬)。
“無条件の愛”を飼い主に捧げるが、飼い主の方は、いろんな事情で必ずしもそれに応えられない。
自分としては、「9」、アナ、サラ、マローナと、飼い主が変わるたびに名前も変わるという、その運命の“はかなさ”に心打たれた。主人公は、実は必ずしも“マローナ”ではないのだ。
ただ、なんといっても素晴らしいのは、アートだ。
目もくらむ、豊かなグラフィック。
線はうごめき、形は自在に変化して動き回る。特に、アクロバットのマノロの描写は圧巻。
動く人物(と犬)は、コンピューターで描いていると思うが、それだけではなく、背景では水彩やパステルなど、様々なリアルな画材もたくさん使っているはず。
さまざまな要素が、多層のレイヤーをなして重なり合い、拡張・収縮し、回転・傾斜し、ある時は3D空間を構成する。
本作品は、基本的に2Dの“動く絵本”であるが、それゆえに突然、ラストシーンで明示的に使われた3D空間は、目が慣れていないだけに、ストーリーとも合致して迫力を生んでいる。
そういうグラフィック上の、仕掛けとアイデアに満ちた作品だ。
短編ならこの種の作品はいくらでもあるだろうし、パーツの使い回しも多いのだが、それでも、このクオリティで長編1本を作ってしまうというのは、並大抵のこととは思われない。
グラフィックの複雑さの一因は、いろんなアーティストがからんでいるためと思われる。
制作は、ルーマニア、フランス、ベルギーの3社の合作である。
キャラクターデザインは「ブレヒト・イーヴンス(Brecht Evens)」、背景は「ジーナ・トルステンソン(Gina Thorstensen)」と「サラ・マゼッティ(Sarah Mazzetti)」とのこと。
自分は全く知らなかったが、慌てて調べてみると、知る人ぞ知る作家のようだ。
イーヴンスは、水彩を使って画面一杯に色数を尽くして描く作家のようで、何冊もグラフィックノベルが出ている。
トルステンソンは、自分は現段階で、イーヴンスとの絵柄の区別はついていないが、この人の絵とアイデアが、美術の基調を決めている気がする。
マゼッティは、2019年ボローニャ国際児童図書展で、新しいタレントとして賞を取ったほどの実力者らしい。面白く顔が変化する、イシュトヴァンの母親は、この人の造形ではないだろうか。
とんでもないレベルの、モーション・グラフィックスの世界。
絵は“絵空事”、その絵空事だからなしえることを、一つの究極まで追い求めた作品だ。
ともかく、圧倒された。
素晴らしい解説ありがとうございます!本当にすごい作画センスですよね。天才すぎる!(><)
しかしそれだけじゃなく物語りの中身についても、非常に深みがあり
何度でも見たい作品ですよね。
子どもたちに是非見てほしいですね〜^ ^