「命は人のために使うんだ!」帰郷 kossyさんの映画レビュー(感想・評価)
命は人のために使うんだ!
藤沢周平原作だなんて、聞かなければ全くわからないのです。正直なところ、藤沢作品は読んだことがないのですが、映像化された作品で知る限りは山形の小藩を舞台に武士が主人公であるものが多いということ。それなのに今作は武士ではなく、渡世人・ヤクザが主人公なのです。
渡世人という設定を意識してか、乱闘シーンや殺陣も全く違ったものになっています。剣道を基本としたものではなく、チャンバラみたいに自由に刀を振り回し、バックハンドみたいに斬る座頭市みたいな雰囲気。木枯し紋次郎に出てくる殺陣なんかもそうでした。と考えてたら、敵の親分が中村敦夫じゃござんせんか。「あっしは・・・」などと台詞が聞けそうな雰囲気です。
時代劇専門チャンネルが製作した8K映像が圧巻!とはいえ、舞台となるのが3分の2以上暗闇か建物の中という暗い映像が中心。ところが、この暗闇なのに粒子も粗くならずに綺麗に見えるのが特徴と言えるのだろうか。圧巻とまではいきませんが、こんな暗闇なのに隅々まで見える驚きがありました。暗い部屋の中での殺陣で思い出すのは『たそがれ清兵衛』。しかし、やっぱり8Kには敵わない。昔はこんな暗いのが普通だったんだろうなぁ。
あらすじだけ読んでもストーリーは想像がつく。かつて結婚を約束していた女お秋(前田亜季)に「3年待ってくれ」と懇願し、故郷を離れた宇之吉(北村一輝)。結局は焼津(?)の親分のところに下駄を預け、兄貴分のところで世話になっていたが、(詳しくはネタバレになるので伏せますが)結局3年どころか30年も経ってしまったのだ。そして余命もあと僅かと悟った宇之吉(仲代達矢)は故郷を目指すのだった。
独り言をはじめ、台詞がどれもこれも渋みがあってカッコ良すぎの仲代さん。とはいえ、彼の歩んできた人生は間違いだらけで自責の念に縛られてもいる。どうせ長くない余生を若き者たちのために活かそうとする老人なのだ。そして因縁の対決シーンは丁半賭博。相手は宇之吉だと気づいてないほど、落ちぶれているのに、女好きの面だけは若かりしときと同じ。勝負の緊迫感はカイジどころじゃありません。とにかく、勝負は命そのものを賭ける気迫。
そして女優陣の色気がたまらなくいい。また、常盤貴子の強さと弱さの両面を使い分けるところもいい。木曽福島という独特の山岳信仰という世界観もしみじみ伝わってくるし、ちょっとしたコミカルな部分も冴えていた。佐藤二朗もなかなか良かったですよ。
kossyさんへ。
私が観た劇場上映はおそらく2Kダウンコンバート・バージョンだったのかもしれません…。綺麗な8K映像を期待していたのですが、普段の映画とあまり変わらないなと思いました。ちゃんとしたスペックの映像で観ようと思ったら、8Kテレビが必要なんでしょうか?(笑)