劇場公開日 2022年6月25日

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「アトランティス~真の「クワイエット・プレイス」」アトランティス 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0アトランティス~真の「クワイエット・プレイス」

2025年7月21日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

ロシアとの戦争を終えて1年後の2025年のウクライナの姿を描いた近未来映画でした。

制作はなんと2019年。言うまでもなくロシアがウクライナに本格的に戦争を仕掛けたのが今年2月ですから、ウクライナ側としては現在のような事態に陥ることを2019年の時点である程度予想していたということでしょうか。

直近のウクライナの歴史を振り返ればそれも頷けるところで、2014年の段階で親ロシア派のヤヌコヴィッチ大統領が失脚した直後、クリミア半島の親ロシア派が一方的に独立宣言してロシアに併合され、また現在主戦場となっているウクライナ東部のドンバス地方においても、ロシアの後ろ盾の下で親ロシア派が分離独立を画策し、その後継続的に内戦状態に発展しました。ゼレンスキー大統領が就任した2019年時点では、既にドンバス地方の一部地域は親ロシア派が支配していて、大統領選挙もまともに出来なかったようなので、仮に今年勃発した本格的な戦争がなくても、この映画の物語は空想ではなく、確固たる予測だったのかも知れません。

映画を観た第一印象は、とにかく音が少ない、静かな映画ということ。『クワイエット・プレイス』というホラーがありましたが、真のクワイエット・プレイスと呼べるのは本作という気がしました。それもそのはずで、舞台となったのは戦場となっていた東部ドンバス地方であり、戦争が終わったとは言え街は破壊され、そこここに地雷が埋設されていて危険極まりない状況になっているため、基本的に一般人は住んでいません。そんな中を水の運送をしたり、戦没した兵士達の遺体を検査し、最終的に埋葬したりする業務に従事する登場人物たち。基本的に元兵士だったようで、PTSDに侵されている。そんな彼らの絶望が、手に取るように分かる映画でした。因みにエンドロールの場面は全くの無音でした。こんな映画は多分初めてだったと思います。

ただ、当方としては顔も名も知らぬ役者さん達ばかりで、また登場人物の背景も僅かな会話の中から読み解くしかないほど説明がないため、若干理解しにくいと感じた部分もありました。これはまあ致し方ないことだとは思いますが。。。

いずれにしても、先日ゼレンスキー大統領が、ウクライナの復興に100兆円必要だと発言したと報じられていましたが、仮に戦争が早期に終結しても、ウクライナの人達に平安が訪れるのは大分先のことになるのではないかと予感させる作品でした。

鶏
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