「見えないものを映し出した傑作」街の上で るる 新垢さんの映画レビュー(感想・評価)
見えないものを映し出した傑作
荒川青はとても魅力的。不憫な目にあうことが多く、誰からも好かれやすく、人柄あたりがいい、愛すべき人間というかんじ。でも、彼女に手を挙げる(先にやったのは彼女だが)という意外性もある。読めないかんじを入れ込んでいるところは、今泉監督ぽい。
中でも一番好きなシーンは、青とイハの家のシーン。あれは19分間くらいの長回しらしいからすごい。初対面の二人が恋バナを赤裸々に語っているが、台詞とは思えない自然さにびっくりする。自分もその空間にいるんじゃないかと錯覚するほどに、そわそわやワクワクが伝わってきて好き。
映画冒頭のシーンが大きな伏線回収になっていて、他にも細かな伏線回収がちらほらあるところも楽しい。たとえば、ミュージシャンが歌う「♪~エンドロールに名前がなかった。」とあるが、青が聴いていたときは、彼女と別れたすぐあとで。彼女の人生のエンドロールに自分の名前はなかった。の意味合いで捉えられる。
でも最後まで見ると、自分が出るはずだった映画のエンドロールに名前がなかった。という意味なんだなと思った。エンドロールに名前がなかったとしても、
生きていてなにか大きな名前を刻むことがなかったとしても、荒川青という人物をちゃんと見てくれていた人たちはいる。それだけでいい。と優しく諭されているような...
街は変わりゆくけど、確かにそこに存在していた。見えないものを映し出した優しい映画。
どのシーンも会話にユーモアさがたくさんあって、くすっと笑える。不憫さ、気まずさ、居たたまれなささえ愛おしくなる。「街の上で」の世界観にいつまでも浸っていたくなる。若葉さんが、お気に入りのキーホルダーを見つけたような。お守り。のような、といっていたけどまさにぴったりな表現!終わり方まで完璧!!おすすめの映画、好きな映画、挙げる作品です。