「映画館が今あってよかったと思える作品」街の上で 鯨さんの映画レビュー(感想・評価)
映画館が今あってよかったと思える作品
映画館があってよかった。
退屈な、誰かの日常の一部分をのぞきみているような、
小さな画面ではものすごく陳腐に思えてくるようなひとつひとつを、
取りこぼさずに見られることが、映画館の醍醐味だなぁと思う。
ずっと見たかったのにウダウダしているうちに上映が終わってしまって、
でもレンタルやVODで見るのはなんとなく違うなと思っていた、街の上で。
リバイバル上映で、降りたこともない遠方の駅の小さなイオンシネマで、
この映画だけに向き合えてよかった。
下北沢を舞台に、主人公の退屈そうで刺激のある毎日を、気だるげに時に下世話なわくわくと一緒に過ごした2時間。
あー下北沢ってこういう人いるよね、みんなリアルでそのまま出てきたようなイメージ。
作られた感じのないセリフが延々と続いて、終わって欲しいような、ずっと見ていたいような不思議な気持ちになる。
誰かの人生はどこかできっとつながっていて、きっと今日みたわたしにもなにか影響していくのだろう。
街の上で、を見たわたしと見ていないわたしでは全く違うものなんだな、と感じる。
そして、そんな自分が、珍しく少し好きになれそうな。
それぞれの登場人物の生き方は、個々で見ると意味がないように思えても、
誰かにとってはピンポイントで意味があって、だけど全くセッションせずにすれ違うだけの人もいて。
それがおもしろくて、群像劇というものの懐の広さにびっくりする。
素直になれない人や、素直すぎる人、女々しい人。
誰かの過去や、後悔や、希望、少しの未来。
いやあなた役者じゃなくて本当にその役の人生生きてきてるよね?と言いたくなるような人たちばかり。
ひとりで見たけど、誰かにこの気持ちを伝えたくてたまらなくて、
でもやっぱり文字にすると100%が伝えきれなくてもどかしい。
それが少しくやしくて、でも自分の中にはたしかに見たぞという気持ちがあって、
それが誇らしくて。
恋愛っていいな。
誰かが誰かをすきで、
でもみんながみんな両思いにはなれなくて、
どこかであぶれる人は絶対にいて、
だけど、それでも恋愛って、いいな。
人との会話っていいな。
自分の話を聞いてもらうことって、
知ってもらうことって大事なんだな。
自分にも、誰かをすきになることで、何かができるのかもしれない、
この映画を見たことで、きっと何かが生まれていて、
それがいつか何かになるのかもしれない。
そんな風に思えた作品。
映画ってやっぱりいいですね。
これからもできるだけ映画館で見よう。
こういう作品が細々とでもある限り、
わたしはずっと映画のファンで、
映画館で見ることにこだわっていくんだろうなと思う。