「「街の上で」という名の軽演劇」街の上で ショコワイさんの映画レビュー(感想・評価)
「街の上で」という名の軽演劇
1 下北沢を舞台に、ひとりの青年に起きた数日間の出来事を描いた作品
2 この作品には二つの柱がある。一つ目は、主人公とその彼女とのもつれた恋愛事情の行方。
二つ目は、自主映画の作品に関わることになった主人公のリアクションと新たに得た人間関係。
このリアクション部分は結構面白く感じた。また、主人公の人物造形においても真面目かつ受身な一方、自意識過剰の性格が想像できた。
この作品の特徴は、下北沢のアパートや各種店舗(古書店、酒場、古着屋、カフェなど)の室内での人物の会話劇が中心となっていること。会話シーンでは人物は動きを止めていることが多く、カメラはカット割りをせず、会話する人物を横から捉えている。面白いのは、路上でのシーンがことごとく現実的には起こりえないシチュエーションにして、そこで繰り広げられる会話はとても奇妙であったこと。
全編を通じると、下北沢の街をいわば舞台の板にして、その上でシーンを変えながら会話による現代演劇を演じさせ、それをカメラで写しとったような感じがした。
3 この作品は演劇的であっても決して重いことはなく軽やかであった。また、奇妙な会話やシチュエーションがあっても致命的にならなかった。静かな会話のシ−ンをベ−スにしており映画のリズムのバランスは崩れはしなかった。そして、恋愛劇としてきちんと帰結出来ていた。これは今泉力哉の演出の力である。また、カフェのマスターが主人公に言う「文化はすごい」という言葉は、邦画のフロントランナーとなっている今泉の「映画文化を担って行く」という覚悟であったと思う。なにげない会話の中でジムジャームッシュやトリュフォ-の名を入れたのには今泉のセンスの良さを感じた。
4 今泉作品の馴染みの役者が主要な人物を演じていた。中でも主人公の若葉は現代的で繊細な若者を演じて「・・え?」という言葉とともに印象に残った。成田も存在感のある役どころであった。女優陣では、城定イハ役の人は、丸みのあるふわっとした雰囲気を持っており、若葉との恋バナのシ−ンでは画面を落ち着かせた。
最後にどうでも良い事であるが、古書ビビビの店頭の均一棚は定点観測したいほど魅惑的である。