「俄然人が恋しくなる、ユーモア溢れる街の小さな群像劇」街の上で たいよーさんさんの映画レビュー(感想・評価)
俄然人が恋しくなる、ユーモア溢れる街の小さな群像劇
『あの頃。』を超える、今年のベスト。あの作品が涙でベストなら、こちらは笑ってベスト。ユーモアと愛と人のこと。可笑しくて楽しくてずっと観てられる。延々と部屋で流していたい。
率直な感想として、延期して良かったなと思う、申し訳ないが。若葉竜也と成田凌が朝ドラに出演したり、城定イハとは関係ない城定秀夫監督を『アルプススタンドのはしの方』で知れたり…。ちなみに、最近観た『さつきのマドリ』に出演していたタカハシシンノスケが萩原みのりと付き合ったり別れたりする役で出ていたのも嬉しかった。そうしたリアルとのクロスに加え、4人のヒロインがここ2年で知名度を上げたことにより、作品が熟されたことは大いに影響している。
次に、脚本の旨さ。本作に脚本に名を連ねている大橋裕之のユーモアがプラスに作用したのだと思う。『ゾッキ』のように角度のついた作品の表現者なのだから、くだらなくて愛おしい会話の応酬に一役買っているに違いない。
ミニシアターも相まって、ドッと湧き上がる笑い声や下北沢の柔らかい空気で起こる出来事が一体感を作る。だから、映画館に来て、知らない誰かと共感しているという体験が伴っている。それが最高に気持ちよくて堪らないのだ。
また、ビックリしているのだが、何故か人が無性に恋しくなる。友達とか、恋人とか、知らない誰かとか…。人に興味のなかった私が、誰かと話せる歓びと快感を渇望している。きっとこれは魔法。そういう作品なのだ。
小さな世界の街を切り取った、小さな空間に居候させていただく心地よさ。可笑しいのに愛おしい。ただ人が恋しくなる。喜怒哀楽どれでもいい。そのユーモアは確かに人の中に存在しているのだから。人と話したくなるのは、この作品が人間の"らしさ"と"本能"をくすぐってくるからだろう。
2021/5/21 2回目@イオンシネマ大宮