「金に踊らされるステージの裏で…」ハスラーズ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
金に踊らされるステージの裏で…
2008年、世界に大打撃を与えた金融危機、リーマン・ショック。
しかし、お金の動きに疎い自分にとっては、今一つよく分からず。この事を題材にした『マネー・ショート』もちんぷんかんぷん。
だけど、本作は面白かった。直接的ではないが、間接的な形で。
しかも、ストリッパーの視点から!
2007年。
新しいストリップ・クラブで働き始めたストリッパーのデスティニー。
生活は苦しく、上手く稼げないでいたが、そんな時出会ったのが、謂わば“女王”。ベテランのストリッパー、ラモーナ。
ステージに上がれば男女問わず目を引き、男たちは彼女に大金をバラ蒔き、ジャンジャン稼ぐ。
トップでスターの彼女と親しくなり、彼女から稼げるストリッパーをレクチャー。
メキメキ頭角を現し、2人で組んで、お金が溢れ出す溢れ出す!
高級マンションの一室を買い、贅沢に高級ブランド品を買い、恋人も出来、お金を貸してくれていたおばあちゃんに返済&孫からのお小遣い…生活は薔薇色に。
向かう所敵ナシ!
…だった。
そして、2008年…。
多くの金融マンが職を失い、財布の紐を固く締め、と同時に店の売り上げもガタ落ち。
それまでの生活からも転落。デスティニーは店を辞め、一児の母親となり、堅気の仕事を始めようとしていたが、世の中容易くはない。今まで甘い汁を啜っていただけ。
子供や生活の為、再びストリップの仕事へ。華やかだった以前から、淫靡な世界になっていた…。
そこで再会したのが、ラモーナ。彼女もまた生活に喘いでいた。
もう一度、かつてのような輝きを。人生再逆転の話を持ち掛けられる。
それこそ、本作の題材。それは…
ストリッパーたちがチームを組み、ウォール街の金持ち男たちから大金を巻き上げる!
リーマン・ショック後の米NYで実際に起きた、驚きの事件に着想を得たのが、本作。
さて、その方法は、単純っちゃあ単純。
まず、標的金満男を定める。この定め方も、顔やスーツなどではなく、身に付けている時計や靴で見定める。
“女の武器”で虜にし、ドラッグを混ぜた酒を呑ませて酩酊させ、その隙にカードで高額を支払わせる。
自分はストリップ・クラブではなく、友達と一時キャバクラによく通っていたが、こんな風に標的にされていたらと思うと、ゾ~ッ…。
まあ自分は、標的三段階の最下層だけど…。
方法は単純だが、やってる本人たちはいつも真剣勝負。
気付かれたら負け。一瞬の気の緩みも負け。
男共に媚びない女たち!
楽屋やプライベートでの姿もリアルで、これは赤裸々であると同時に素でもある。
再び生活が潤ってきたデスティニーやラモーナたち。
華やかな生活を自分の手で取り戻した。
が、無論忘れてはいけない。彼女たちがやっている事は、犯罪。
悪い事は長続きはしない。
罪を犯したら、必ず罰せられる。
次第に“仕事”にボロが出始める。
“標的”が恥を忍んで訴えを出し、警察が動き始める。
そして…
デスティニー役に、オウクワフィナと並んでハリウッドで活躍著しいアジア系のコンスタンス・ウー。
セクシーな衣装に身を包み、ポール・ダンスも披露、複雑な内面も体現して、新たな魅力を見せているが、劇中さながら圧倒的な存在感を発揮しているのが、
ジェニファー・ロペス!
スゲーよ、本作のジェニロペは。
数ヶ月トレーニングを積んだというポール・ダンスは超セクシーでド迫力。
話題の磨き抜かれたナイスボディは、“奇跡の50歳”と呼ばれるに偽り微塵もナシ!
カリスマ性、一人娘を育てる母性、若いストリッパーたちの面倒を見る姉御肌。
もう敢えて、姐さんと呼ばせて貰おう。
誰もがこの姐さんに惹き付けられ、虜になり、ついて行きたくなる事間違いナシ!
姐さ~ん!
そんな面だけじゃなく、演技も素晴らしいのだ。
女優として低評価の多い姐さんだが、その才能を光らせる役に巡り合えなかっただけ。
男たちから金を巻き上げるストリッパーという、女優なら一瞬躊躇しそうなキワモノ役を引き受け、堂々と。
賞モノだ。
実際、賞レース快調だったものの、オスカーではまさかのノミネート落選。
何故!?
理由は幾つか挙げられているらしい。これまでの女優としての低評価、女優/歌手の二足のわらじ、この役柄…。
それって、差別や偏見にならないかい!?
受賞は『マリッジ・ストーリー』のローラ・ダーンが大本命だったので難しかったかもしれないが、ジェニロペ姐さんのノミネート姿を見たかった。
作品は快テンポ。
特に音楽が、オリジナル・スコア、ヒップホップ、クラシック、オールド・ソングなど彩られ、ノリノリ。
それらに乗せて、一見はスキャンダラスな女たちの犯罪ムービー。
でも実はなかなか、深いドラマ性もある。
男尊女卑や職業偏見もチクリと。今映画界で流行りの格差問題。
後悔も。
もし劇中で、やった事を後悔なんかしてないなんて言ったら、自分の評価も低かったろう。重ねて言うが、彼女たちがやった事は犯罪。
デスティニーが語る、よく見るという悪夢。やった事へ対しての後悔、重責。それに押し潰されそうだったのだ。
展開はデスティニーの回想スタイル。
主に語られるのは経緯と事件と、ラモーナ。
事件以降、完全疎遠に。
あんなに仲良かったのに。心から信頼し合っていたのに。姉妹…いや、家族も同然だった。
一体、2人に何があった…?
再三言うが、犯罪は犯罪。
でも彼女たちも、あの世界的金融危機によって人生を狂わせられた。
お金で踊らされる人々、踊らされる国、踊らされる世界。
そんな中で、初めて出会った時、寒い屋上で毛皮で包み込んでくれたような温もり…。
純粋に欠けがえのない友達として、久し振りに連絡を。
ラストシーンも良かった。
ジェニファー=ラブコメというイメージ強いですが(もちろんラブコメのジェニファーもかわいい)、結構昔から『ザ・セル』や『アンフィニッシュド・ライフ』など意欲的な作品にコツコツ出ていたので、今回のように賞レースに絡んだのは嬉しかったです。あ、一番かわいいのは『shall we dance?』だと思ってます。以上ジェニヲタでした。