「グッドバイから始まるアイラヴユー」グッドバイ 嘘からはじまる人生喜劇 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
グッドバイから始まるアイラヴユー
原作は太宰治の未完の遺稿。
それを基にしたケラリーノ・サンドロヴィッチの舞台劇。
それを成島出監督が映画化。
成島作品でこの魅力的な主演2人にも拘わらず、何故か劇場公開時はさほど興味惹かれなかったが、見たらそんなのとは“グッドバイ”。
笑えて、意外や感動も。ほっこり面白かった。
終戦後のある男と女の物語…。
文芸誌編集長の田島は疎開させた妻子と再び暮らす為、幾人もの愛人との関係を精算。が、どうしたらいいか…。
昵懇の作家先生から美人に偽の妻を演じて貰って別れを告げるよう提案されるが、そんなちょうど良く居るものか。
居た! 街で見掛けた美人。
何とその女性は、田島と知り合いのキヌ子。普段は顔中汚れて仕事し、ダミ声で、大飯食らい。が、磨けば見とれる美人に!
金にがめついキヌ子に頼み込み、偽装夫婦で愛人を一人ずつ訪ね始めるのだが…。
何と言っても一番の魅力は言わずもながな。
大泉洋と小池栄子。
この2人の掛け合いは見る前から面白そう。いや、面白いに決まっている!
だらしなく、優柔不断。なのに、愛人を多く囲み、その関係はズルズルと。
情けなく、ダメダメなんだけど、憎めない。
それをさすがの巧演とコメディセンスで。
大泉洋のハマり役!
あ、いや、別に、大泉洋自身がそんな人って訳じゃなくて役柄が…ね、分かるでしょう??
大泉洋もいいが、その言わば“あげまん”の小池栄子。
彼女の魅力あってこその本作!
舞台版からの登板で、大泉洋以上にハマり役!
男勝りな姿と、美しく着飾った姿。どちらも素の小池栄子を見ているよう。
成島監督とは3度目のタッグなので、見事彼女の魅力を抑えている。
言うまでもなく、こちらも抜群の巧演とコメディセンス。
男勝りな小池栄子とレディな小池栄子。どちらもいいが、敢えて言うなら、前者かな。
だって、分かるでしょう??
この2人の掛け合いが最高!
まさしく、夫婦漫才!絶品芸!名舞台を見ているかのよう。
何度も共演しているように思えるが、これが本格初共演なのが驚き!
演技の巧さや相性の良さだね。
周りも演技巧者たち。
作家先生役の松重豊、田島の部下の濱田岳もなかなかクセ者だが、やはり百花繚乱の女優たち。
メンタル不安定の緒川たまき、怖~い兄がいる挿絵画家の橋本愛、クールな女医の水川あさみ、そして肝が座っている本妻の木村多江…もうタジタジ!
それから、戸田恵子の言う事は守りましょう。
初のコメディ映画で、主演2人の魅力を存分に活かし、成島監督の演出は軽快。
昭和テイストもノスタルジック。
偽装夫婦に成り済まし、訪れた愛人先で珍騒動。
実際、そうだった…中盤までは。
ある人物からまさかの裏切りに遭い、あっという間に妻から離縁。
人生どん底。そんな時想う君は…
彼女の元へ急ぐ。
が、思わぬ悲劇が…。
太宰治の原作は映画中盤の愛人巡りまで。
確かにコミカルな前半から突然のトーン変わりの後半。
でも不自然ではなく、そこは名脚本家・奥寺佐渡子の巧みな語り口。
ダメ男とガサツ女のドタバタ艶笑劇と思っていたのが、映画オリジナルの思わぬ感動の結末へ。
グッドバイからアイラヴユー。
嘘から始まった人生讃歌であった。