「2人の名優による良質の会話劇が圧巻」2人のローマ教皇 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
2人の名優による良質の会話劇が圧巻
当時のローマ教皇から次期教皇へと代替わりをするその時を描いたドラマということで、観る前は一体どんな作風になっているのだろうかと、予想もつかないような気持ちだった。観終えた印象でいうと、舞台戯曲×ドキュメンタリー×歴史ドラマというような不思議な感覚と言えばいいのだろうか。例えば、ジョナサン・プライスとアンソニー・ホプキンスのシーンは会話劇の要素が極めて強く、宛らそのまま舞台戯曲に展開できそうな佇まい(追記:こう書いた後で、この作品が戯曲原作だと知りました)。そしてホルヘ・マリオ・ベルゴリオ枢機卿(当時)の回想として描かれるシーンは歴史ドラマや伝記映画の雰囲気。そこにニュース映像を模したようなドキュメンタリー風の(この辺はメイレレス監督らしい演出という気がする)世相を描き出したリアリティのあるシーン。という具合にそれぞれ別々の特徴を持った演出が与えられ、それらが複雑に絡まり合って一本の映画になったような。それでいてそれらが齟齬を起こすでもなくそれなりにまとまって見えるというのは、なかなか凄いことだと思うし、なんなら最終的にはハートウォーミング系の映画のように回収して締め括るものだから「この映画のジャンルは?」と訊かれても一言で答え切れないような、不思議な感覚のする映画だった。
それでも一番の見所はやはりプライスとホプキンスという名優の演技対決になるのではないかと思う。片や枢機卿を辞意を抱き、片や教皇の座を譲り渡したいと考えているという対極な二人が、それぞれの思惑を抱えつつ交わすやりとりと駆け引きを実に充足感の在る見応え魅せてくれて、かと言って主演のお二人とも力んだような大芝居を打つでもなく、さらさらと台詞を放っておきながらその一言一言にぐっと惹きつけられるパワーのようなものがあって、名優ってひたすら凄いなと思うばかり。『天才作家の妻』の時には堅物にしか見えなかったプライスが本作では実に柔和でキュートな人に見え、ホプキンスに至っては彼にとっての新たな名演と言える作品になったのでは?と思うほど素晴らしい演技だった。もう惚れ惚れ。尚且つ会話劇として非常に良く出来た内容で、前半でさらりと交わした会話が後半で立場を逆転させて再浮上したりといった技巧のほか、運動不足を報せるアラームがうまく場面転換を促したり、窮屈になりがちな会話劇に風を通して軽やかに魅せる。単純に二人が会話を交わすシチュエーションの美しさやにもうっとりさせられるし、いっそ全編に亘って二人の会話劇で映画を成立させても良かったのではないか?と思うほど。
というのも、途中で挿入される回想シーンがやや中途半端というか蛇足のように思えてしまったからかもしれない。もちろん教皇フランシスコの人となりというか半生や、現在のカトリックの信念に行きつくまでというようなその過程という意味では描かれて疑問のない内容ながら、あえてそれを映像化し視覚化させてまで描くほどの魅力までは導き出せておらず、いやはやジョナサン・プライスほどの名優ならば、もしかしたらわずか一言の台詞や表情のひとつでさえ、あの回想シーンの本義を物語ってしまえたのでは?など私なんか思ってしまった。事実、もう一方の名優アンソニー・ホプキンスはベネディクト16世の告解を余分な説明を加えることなく語りつくしていたわけだし。
それにしても、他国ではこの映画にしろヘレン・ミレンの「クィーン」にしろ、王室やカトリック協会のしかも存命中の関係者をメインにしたフィクション映画を作ってしまえるというのにいつも驚く。この映画も”Based on a True Story”ではなく”Inspired by a True Story”ということである以上、教皇を主人公にしつつも史実がどうこうというよりフィクショナルな面が大きいと思われ、かえって史実と違うとはっきりしていた方が安心するものの、だからこそフィクションを現教皇を主人公にしてやれてしまうっていうことが単純にすごいなと思う。日本に置き換えて考えたところで到底ないことだろうなぁと思う(別にやれとも思わないけれど)。
あと若干、現教皇のプロモーションっぽい感じが否めないでもないようなないような・・・。