「最強お爺ちゃんトークムービー」2人のローマ教皇 andhyphenさんの映画レビュー(感想・評価)
最強お爺ちゃんトークムービー
お爺ちゃんトークムービーの傑作、ここに誕生である。
Netflix作品が席巻した第77回ゴールデングローブ賞で4部門ノミネート。ジョナサン・プライスが主演男優賞でアンソニー・ホプキンスが助演男優賞候補なのに戦略を感じる...(まあ既報通りなんだけど)。
2012年、ローマ教皇ベネディクト16世退位直前のローマで、当時の教皇ベネディクト16世と現在の教皇、最近来日したことでもおなじみ教皇フランシスコ(ベルゴリオ枢機卿)の対話劇。
実際にこんなに密なやり取りがあったかといえばそれはフィクションであろうが、脚本は実際に彼らが述べた言葉をもとに構成されているそうだ。
2012年といえば、ベネディクト16世の机から機密文書が持ち出され暴露された「バチリークス・スキャンダル」の年。それ以前に発覚した性的虐待問題とともに教会大揺れの年である。心なしかお疲れのご様子のベネディクト16世の元に、偶然と必然が重なってベルゴリオ枢機卿がやってくる...。
アンソニー・ホプキンスが演じるとガッチガチの保守派であるベネディクト16世も、硬いながらもキュートなおじいちゃんに見えるから面白いものだ。ジョナサン・プライス演じるベルゴリオ枢機卿は最初から飄々とした人気者の体で登場するが、彼の苦悩の深さが見どころでもある。
ダンシング・クイーンを口笛で吹くベルゴリオ枢機卿。辞表を受け取らせたいベルゴリオ枢機卿と受け取らないベネディクト16世のお爺ちゃんらしい丁々発止(ヘリコプターでのやり取りが特におかしい)。ピアノを弾くベネディクト16世。ビートルズについてのおかしなやり取り。スポーツバーでサッカーで盛り上がるベルゴリオ枢機卿。基本的に、彼らも人間なのね...という緩やかな会話のテンポで物語は進む。お互いに「妥協と変化」を持ち出したり、「枢機卿の2割しか分からない」ラテン語で会話を始めたり、機知に富んでいる。
ふたりの宗教的価値観の対立から始まる対話は、途中緩み、中盤で退位を打ち明けるベネディクト16世に、ベルゴリオ枢機卿が語る過去、そして教皇の告白でまた緊張が入る。緩急がよい。そしてアンソニー・ホプキンスがピザの前でお祈りを続けるため、ピザを取れないジョナサン・プライスの微笑ましさよ...。
カトリックには全く詳しくないけれど、教皇が背負うものとか、信じる心とか、痛みを伴う過去とか。薄らと感じ取れた。彼らを徹底的に最初から最後まで、特別な者でなく「ひとりの人間」として描く。ベネディクト16世の苦悩と希望、ベルゴリオ枢機卿の悔恨と希望。互いが互いを受容する光景が印象的だった。
かなりの部分、2人のお爺ちゃんの対話で構成されるので、若干だれる部分もあるものの、それでもアンソニー・ホプキンスとジョナサン・プライスの表情とやり取りに魅せられる。若者には出せぬものがありますね...。
そしてラスト・シーンが最高に微笑ましいので、ラストまでじっくりご覧ください。
それにしてもこの映画の邦題、法王という呼称から変わる前から「2人のローマ教皇」だったと思うんだけど...先見の明...?