解説には中編サスペンスとあったが、サイコロジカルな作品だった。
すべてがサオリ一人によって作られているので、それ以上分類できないように思う。
あらかじめ背景として設定されているバツイチ
これは視聴者にある種の思い込みを抱かせるためだけのように感じた。
冒頭でわざわざナレーションする必要などないように思う。
またそれぞれがなぜバツイチになったのか?
それは物語で想像できる。
夫のケイスケ
彼本来のガサツな気質、自分がしたいことだけを優先的にして、共同生活委に対する配慮は微塵もないことが、「それ」だろう。
一方サオリ
彼女は生真面目で夫の些細な問題にもいちいち反応しないようにしている。
この物語の主人公で、彼女の内面こそ監督が描きたかったこと。
彼女の離婚原因を彼女の日常から探すことはできない。
そうであれば、夫の不倫と相手方の賠償問題が原因だろうか?
結婚をリスタートさせた二人
しかしケイスケの毎日に些細な言動やノイズが不満となって溜まっていく。
この積み上げるように溜まっていった不満を、木の枝とそれを積み上げて巣にしているのを見て、自分との一致に気づいた。
これが耳が遠くなって聞こえにくくなったことを引き起こした。
自分自身の内面
夫の嫌な言葉や音だけがはっきり聞こえたのは、それをまた「積んだ」からだろう。
こうして考えると、サオリは夫のすべてが嫌いだという感じだが、実際にはそうでもない。
彼女はウェディングプランナーの仕事の絵を上手く描けなくなった。
新郎の顔を夫の顔にした。
自身の腕を切り取ってシャベルのようなものを作った。
そしてあの巣のようなものの中をほじる。
押し殺してきた自分の声
犬の糞となって出てきた夫の頭部
それを穴に蹴り入れる。
サオリは、自分自身が黙って抱え込んできたものの正体を見た。
彼女が5年近くかけて積み上げてきた「夫像」
それは醜いものだった。
しかし、
夫がくれた耳にいいサプリや結婚記念日の花束
穿った見方をしていた自分自身
サオリが離婚した本当の原因は、勝手に作り上げてきた「夫像」
確かにあった不倫だが、その事実が色眼鏡となってわずか7日程度で離婚した。
夫に寄り添うことなどしなかった当時の自分
夫の言葉など一切聞こうとしなかった自分
そうして、また同じようなことになりそうだった。
サオリは、いつもの夫の仕事の愚痴に少しだけ耳を立ててみた。
そして初めてアドバイスしてみた。
その反応に少々驚いたケイスケ
このありふれた夫婦の日常
なかなか奥深く余白があって考えさせられる作品だった。
ただ、感じ方はそれぞれあるので、やはり多義的ではある。
最後のシーン 割れたペン立てが直されていた。
これがこの物語が伝えたかったことであるのは間違いないだろう。