「命がけの探究者」HOKUSAI まつさんの映画レビュー(感想・評価)
命がけの探究者
評価が難しい。評価なんておこがましい気もする。
単純に楽しいものではなく、華やかさより、泥くささが強い。
しかし迫力があり、作られた意味があり必要な作品だと思う。この北斎はこの2人にしかできないだろう。
また、天才としか見てなかった葛飾北斎が、葛藤や苦しみ、弱さを抱えながら闘う姿に、同じ人間なんだと親近感がわくし、勇気づけられる。
※この後ネタバレあります。
青年期を演じる柳楽優弥さんの何しでかすかわからない危うさ、猟奇的なところはこの方しかだせない気がする。
老年期の田中泯さんはまさに北斎。突風が吹いて喜々とするところや、雨の中で染料を浴びる姿には惹きつけられる。舞踏家として活躍していたからこその表現力なんだろう。
阿部寛さんも良かった。儲けることより、どうすればより良くなるか追求する姿勢。媚びず甘やかさず、自分の信念を貫いていてカッコいい。
この映画で学んだこと。
・人と比べて卑屈にならなくて良い。自分という個性が大事。
北斎と同じ時代に生きた絵師で、歌麿や写楽が登場する。分かりやすいようキャラを脚色してあるが、北斎にはない個性的な絵で売れていた。
それに比べ自分の絵は売れず、敵対心むき出しで勝負する北斎。
お前は勝ち負けで絵を描いてるのか?だったらさっさと辞めちまえ!と版元の主人に言われる始末。
何度も挫折し苦しみながら、たどり着いたのは幼少期夢中になって描いていた記憶。荒削りだけど、原石が輝きだした瞬間だった。
・何歳からでも挑戦できる。歳をとるからこそ楽しい。
70代になり、病気で半身麻痺状態になる。そうなると、もうダメだ。絵はもう描けない。となりそうだが、北斎は違った。
旅に出るわ!
???えっ?その体で!?
旅先で死ぬのも悪くない(笑)
いや、冗談じゃ。まだ死ねん!
この体だからこそ、描ける絵があると思うんじゃ!
1番印象に残ったシーン。そういう考え方はなかったので、衝撃だった。
・今は幸せ。感謝。
江戸時代の規制や罰則がそこまで厳しいと思わなかった。
本当に命がけで絵を描き、本を書き、物を売っていたのか。だからこそ、昔の絵が今でも見られるし自然と感謝もうまれてくる。
特に印象的なのは、生首の絵。頭にこびりついて離れない。無念さが伝わってくるし、小学生だったらトラウマものだ。
そんな昔を思うと、今は自由な表現が許されている。その弊害もあると思うけれど、今は幸せなんだと思う。
結果、観て良かったと思う。消化するのに時間がかかるけど、栄養豊富な映画だった。
規制、罰則
あんなに厳しくないです。
普通は奉行所に呼び出されて厳重注意を受けるだけ。
懲りない絵師や戯作者も、せいぜい始末書か罰金刑です。
種彦も斬殺なんてされていません。厳重注意と始末書だけです。年齢もあんな若者ではなく60歳でした。人気絶頂中だった「源氏物語のパロディ話」の続きを書く事を禁じられたので、精神的ショックはあったかもですが、所詮パロディ話ですから命をかけるほどの芸術でもないでしょうし。
歌麿の手鎖50日投獄は、遊女や歌舞伎役者レベルの違反ではなく、太閤秀吉の「醍醐の花見」という秀吉一世一代の催し物を大判3枚続きで描いたからです。(歴史上の人物は、信長・秀吉以降の人間を描くのは禁じられていた。芸術面より政治的配慮でしょう。)
いくらフィクションとは言え、事実部分があまりに嘘ばかりなのは少し問題がありますね。
この映画を信じないで下さいねー。