「黄色い靴が訴えるナチズムへの怒り」ジョジョ・ラビット inosan009さんの映画レビュー(感想・評価)
黄色い靴が訴えるナチズムへの怒り
この年のアカデミー賞で作品賞・助演女優賞を含む6部門にノミネート。主要な賞は逸したがからくも脚色賞だけの受賞となった。殺伐とした映画が目立つなかで、結果はともあれ本作のようなほのぼのとした映画がノミネートされていることにどこかほっとしてしまうのは私だけではないだろう。
ナチスドイツの敗色濃い大戦末期、ヒトラーに憧れる10才のジョジョはヒトラー・ユーゲント(ヒトラー少年隊)に入隊しナチスの訓練に明け暮れる毎日だが、訓練ではウサギも殺せず、手りゅう弾は投げ損ねて自分が負傷してしまうという始末だ。そんな心優しいジョジョを励まし鼓舞するのが彼の空想の友達アドルフだ。このアドルフを監督のタイカ・ワイティティが自ら演じているのだが、ヒトラーを揶揄したこの空想上の人物に、ナチズムへの痛烈な皮肉を込めた監督の心情が湧き上がる。チャップリンの名作『独裁者』を彷彿させる名演だ。
ジョジョのお母さんを演じるスカーレット・ヨハンセンがまた素晴らしい。『ロストイントランスレーション』の頃からはずいぶんオトナになって、最近ではアクション女優のイメージが強いが、『マッチポイント』や『それでも恋するバルセロナ』などアレン映画でもヒロインを演ずる実は演技派。『真珠の耳飾りの少女』の時の美しさは今でも目に焼き付いている。スカジョのこのお母さんが実はレジスタンスの活動家であり、その悲しい運命を靴だけで表現するワイティティ監督の演出がさりげなくまた痛切で、本作の忘れ難い名シーンのひとつにもなっている。
ジョジョが家の隠し部屋に匿われたユダヤ人少女との触れ合いを通じて、徐々にナチスの欺瞞に気づいてゆく過程が淡々と綴られて胸に迫る。こうした奥深い命題を決して深刻にではなく、コメディの形で提示してみせた監督の手腕に最大限の賛辞を贈りたい。本文冒頭に『ほのぼのとした映画』と書いたが、これは決して『ほのぼのとした』だけの映画ではないことを強く言明しておきたい。