劇場公開日 2020年1月17日

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「確かに語り方や物語の展開にちぐはぐな点はある。それも含めて魅力の多い一作。」ジョジョ・ラビット yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0確かに語り方や物語の展開にちぐはぐな点はある。それも含めて魅力の多い一作。

2020年1月30日
PCから投稿

予告を観てぎょっとした人も多いでしょう。
よりにもよってヒトラーをイマジナリー・フレンド(想像上の友達)に持つ、ナチス大好きな男の子が主人公とは。
しかもギャグのように描かれている場面は、笑いと嫌悪のギリギリの境界上にあるような代物。
この作品を事前にどのように捉えていたらいいんだろうか、と思いながら本作に臨んだ人もいるのでは。

冒頭からまさに、予告編が描いていた雰囲気をエンジン全開で見せていきます。ビートルズに合わせてヒトラーに熱狂する群衆の姿を写したオープニングは、まさに出色のできばえ。

その後物語の調子はやや落ち着きますが、恐らく主人公ジョジョの心象を反映したのであろう街の風景は、国家存亡の危機にあるはずなのに、どこか牧歌的で色鮮やかですらあります(特にスカーレット・ヨハンソンの演じるジョジョの母親がみせる、気高い美しさ)。

映画は明らかに、ナチスの行いを皮肉な笑いに転換する演出的要素と、ジョジョの心象風景に基づいた映像、そしてジョジョとその周囲の人々との交流という三つのバランスが取れておらず、そこに居心地の悪さを感じても無理はありません(町山智浩氏の評論は、タイカ・ワイティティ監督の追求するテーマに理解を示しつつも、やはりこの作劇上の不自然さを看過しなかった)。

一方で、そうした本作の(見方によっては)欠点を理解しつつも、あくまでジョジョに寄り添い続けた監督の視線に深い感動をおぼえる人もいるでしょう。戦争で傷つく子供達を正面から捉え、戦争の罪を告発する映画ももちろん重要です。しかし本作が提示した、戦争という極限状態も子供の心の無垢を全ては奪えない、という「物語」に、救われた思いになる人も多いのではと思います。

yui