「ウルトラマンの顔がだんだん斎藤工に見えてくる不思議」シン・ウルトラマン うちみさんの映画レビュー(感想・評価)
ウルトラマンの顔がだんだん斎藤工に見えてくる不思議
*あらすじ
巨大不明生物に次々と襲われ、そのつど大きな被害をうけてきた日本。襲来者を禍威獣(かいじゅう)と呼び、その専従組織や自衛隊などが迎撃・駆除をおこなっていた。7体目の禍威獣があらわれたそのとき、謎の銀色の巨人が飛来し、状況が一変する。日本はその外星人をウルトラマン(仮称)とし、禍威獣と併せて対応していくことになる。
*感想
あるテレビドラマを見てからウルトラマン熱が盛り上がり、今回劇場まで足を運びました。とはいえ、最初は軽い気持ちで、ヒーローもの・怪獣バトルものだろうと予想。タイトルに“空想特撮映画”とありましたし。だけど観はじめるとグイグイ引き込まれ、かなり感情移入していました。空想物語なのに現実的にとらえちゃって。エンドクレジットで流れる米津玄師の曲も世界観と合っていて、最後まで心つかまれ、劇場から出ても後を引いてしまっていました。またウルトラマンに会いたいと思っている、不思議ですね!
なんでかというと、人間ドラマ(外星人ドラマ?)の部分がきちっと、ずっしりと描かれていたと実感したからです。舞台が現代だったり、最新映像技術のおかげで演出や効果がリアルだったりしたのも、現実的と感じちゃった理由のひとつでしょうか。
そのウルトラマンについて。昔のウルトラマンよりも細身、より金属的な銀色でテラテラしているように見えました。そのためか、妙に生々しいんです。裸一貫、無防備のように感じます。スーツ着てる感がないというか(昔は着ぐるみだったからスーツ感があった)。
そのせいでしょうか、戦いが痛々しい。巨大ドリルのような部位を向けて突っ込んでくる怪獣もいれば、怪光線を放ってくる外星人もいる。それらを手のひらや胸部で堂々と受けとめる、ウルトラマンの姿。今の映像技術でより本物っぽく表現されているから、観ていて変に心配になります。応援したくなります。なんだか自分の手も痛くなってきちゃいます。
また、自分のせいで神永(ウルトラマンに変身する前の主人公)を死なせてしまった罪悪感や責任感を強く抱く姿。人間のことを学び理解し静かに寄り添おうとする姿。だんだん人間のようになっていくウルトラマンを見ていたら、彼のことを好きになってきていました。…だからウルトラマンの顔がだんだん斎藤工さんに見えてきたのかも(笑)
以上のようなさまざまな要素があって、私の中でウルトラマンのリアルさが増したんです。彼の「人間を見守っていきたい」という気持ちもリアルに感じられて、個人的にはウルトラマンシリーズで一番好きになりそうです。
おすすめシーンは、ザラブとの夜間都市空中戦。短時間だけど見ごたえあります。一瞬だけどビルの合間を飛ぶウルトラマンの姿はめっちゃかっこいい。
あと、“八つ裂き光輪”ってウルトラマンの技がけっこう活躍するんです(劇中では技の説明はありません)。昔からある技なんですけど、今見ると技名すごいセンスだなって(笑)
ウルトラマン以外のキャラクターでよかったのは、田中哲司さん演じる、宗像。神永も所属するチーム “禍威獣特設対策室専従班” の室長です。状況が刻一刻と変わるなかで、チームのみんなを信じて柔軟に対応していく姿がすごく頼もしい。田中さんが演じられたことで、現実にいそうというか、存在感に説得力がありました。
ウルトラマンの同胞として、物語終盤にゾーフィが登場します。声は山寺宏一さん。一緒に戦ってくれるのかと思いきや、故郷である光の国から命をうけ、地球を滅ぼしにやってきたと言います。星自体を消し去る力をもつゼットンという最終兵器を持参、起動させます。
山寺さんの澄みきった心地いい声。なのに「地球は滅ぼしますよ」ってセリフではとても冷血に聞こえます。「命令だし、幾千万もある星々のたったひとつを消すだけなんだから影響なんてないよ」と淡々に語る姿には身ぶるいしました。逆に、人類を守るという固い意志を見せたウルトラマンに対し「なんでそんなに人間が好きなの?」と問い、それを受け入れたさいには慈悲深さみたいなものを感じました。声の演技ってすげぇなと。
声といえば、星をあっという間に滅ぼすほどの兵器ゼットン。「ゼットン…ゼットン…」ってダミ声でつぶやいてて、アホの子っぽくておもしろかったです。
今作では、ウルトラマンが現れる前から禍威獣は日本を襲うも、日本側は自力で撃退していました。もし現実で本当に未知の存在に襲われたとしたら。宇宙人・異星人なんかはアメリカが強そうだけど、妖怪や怪獣は日本ならなんとかやっていけるんじゃないかと思えますね。ゴジラ含め空想でここまで表現できるんですから。
めっちゃ長い感想になりましたけど、最後に個人的な気持ちを書きます。子どものころはウルトラマン好きで、ビデオテープをよく見たり、ソフビ人形でごっこ遊びしたりしていました。自分が歳を重ねたってこともあるだろうけど、最近のウルトラマンシリーズはちょっと近寄りがたく。
今年放送されたテレビドラマ『ふたりのウルトラマン』をたまたま見て、とても感動しまして。そこでウルトラマンに対して熱い気持ちがよみがえったんです。今作を「劇場で観たい!」と思えるきっかけになりました。全話見ているわけじゃないですけど、ウルトラマンやウルトラセブンなど昔の作品にはドラマ性だったりメッセージ性だったりを感じられて、やっぱりいいものですね。
『シン・ウルトラマン』はウルトラマンシリーズをまったく知らなくても楽しめると思うので、いろんな世代の人に観てもらいたいです。
2022/5/21 新宿ピカデリー