「見たぞ 我らのシン・ウルトラマン」シン・ウルトラマン 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
見たぞ 我らのシン・ウルトラマン
『シン・ゴジラ』から6年。
庵野秀明と樋口真嗣のコンビが往年の特撮番組を現代リブートする“シン・シリーズ”。
その第2弾として製作されたのが、
“シュワッチ!”と光の国から僕らの為に、来たぞ!我らの…
ウルトラマン!
まあ全員ではないが、日本人なら必ずウルトラマンを見知り、何かしらの形で触れていると思う。
仮面ライダーと双璧をなす日本のヒーローの象徴。それくらいのスタンダード。
今や当たり前の基本設定も放映当時は斬新。
影響は計り知れない。
元プロレスラーの前田日明氏は子供の頃からウルトラマンの大ファンで、最終回でウルトラマンがゼットンに倒された事にショックを受け、いつか仇を取ると格闘家を目指すきっかけになったという。
アメリカでは事故に遭い昏睡状態になった郵便配達の男性が奇跡的に回復。彼の意識を蘇らせたのは、「もう一度、『ウルトラマン』が見たかったから」という逸話も。
時代や国も関係なく、今も尚僕らの心を魅了して止まない。
庵野と樋口の二人も、多大な影響を受けたドストライク世代。
特撮を愛するこの二人が、『シン・ゴジラ』に続いてどんなウルトラワールドを魅せるか…?
コロナで製作遅延や公開延期、『大怪獣のあとしまつ』の失望を経て、
本当に待ちに待った!
『シン・ゴジラ』同様、激しく賛否両論になるだろう。
“シン要素”なんて要らない。寧ろそれは設定を変え、世界観ぶち壊し。
長く愛され続ける作品なら、そんな声が出て当然。
でも、ただ昔のままやったら、そもそもやる意味や必要がない。
“作る”とはまた新しく生み出す事。レガシーをさらに発展させる事。
オリジナルをリスペクトしつつ、それまでの常識や固定概念を覆す。
それが、『シン・ゴジラ』だった。
それは本作でも感じた。
全く新しく、それでいて旧作の“残り香”が匂う。
ファンには堪らないマニアックネタ。興奮し、思わず笑ってしまったほど。
個人的には非常に楽しめ、面白かった。良かった。
まずは、非常に気になっていたOP。
どんな風に始まるのか…?
宮内國郎氏によるあの音楽。おっ、“ウルトラQ”ロゴ!…と思ったら、まさかの“シン・ゴジラ”。からの“シン・ウルトラマン”。そう来たか~!
でもその後そのまま本編となり、劇場大スクリーンであの主題歌を聞けなかったのは残念!
その代わりと言っちゃなんだけど、開幕数分は意外な“作品”から始まる。
『ウルトラQ』!…いや、『シン・ウルトラQ』!
あのテーマ音楽に乗せて、『ウルトラQ』の怪獣たちが次々登場。
ゴメス! マンモスフラワー! ペギラ! ラルゲユウス! カイゲル!(『Q』時のゴーガ) パゴス!
本作は、“禍威獣”と呼ばれる巨大生物の出現及び襲撃が当たり前になっている設定。
その説明であると同時に、ウルトラシリーズの原点は『ウルトラQ』である事へのリスペクト。
その心意気に嬉しくなった。
私の本作への最大の楽しみ、期待の一つ。
登場怪獣/宇宙人。
予告編で明らかになっていた4体と、シークレットの1体であった。
ネロンガ、ガボラ、ザラブ星人、メフィラス。
普通だったら“BIG4”をチョイスするが、そこが凡人と鬼才の違い。作品を見て、この4体が選ばれた理由もちゃんとあった。
設定上で、パゴスとガボラは放射能物質を捕食する同族の禍威獣。
そのパゴスとガボラ、ネロンガは、TVシリーズで『Q』パゴス→『マン』ネロンガ→ガボラと着ぐるみが改造された。ファンや作り手しか知らないようなディープ過ぎる裏ネタ繋がり。
外星人=宇宙人は何故にバルタン星人じゃなく、ザラブ星人とメフィラス…?
ザラブ星人回には偽ウルトラマンが登場し、善悪やウルトラマンの存在意義を問い掛ける。
メフィラス星人回はウルトラマンと同等の力と頭脳を持つ対知的宇宙人で、本格知的SFが出来る。また、巨大化したアノ人はかつてのフジ隊員へのオマージュ。
実は絶妙なチョイス。
バルタン星人、レッドキング、ゴモラは残念ながら登場しない。が、やはり出た!
ゼットン! そしてゾーフィ!(ゾフィーじゃないの…? これにも裏ネタあり)
…しかし、その描かれ方や設定は、本作に於いて特に賛否分かれそう。一緒に観た弟の反応も「う~ん…」。
でもこの思い切った設定は、庵野だから描けた気が。何処か『エヴァ』を彷彿させた。
ゼットンも禍威獣も外星人も使徒を思わせるデザイン。これは庵野ならではの、使徒のモデルがかつての怪獣たちであるという紛れもない証しだ。
科特隊ならぬ“禍特隊”。
かつてと同じ5人チームで構成。かつての精鋭とは違って、霞ヶ関のはみ出し者で禍威獣に立ち向かう。
インテリ面々は『シン・ゴジラ』の対策チームを彷彿。
冷静沈着な西島“キャップ”、ムードメーカーな早見あかり、未知のウルトラマンや禍威獣に葛藤する有岡はイデの立ち位置。
“ウルトラマンになる男”斎藤工はハヤタと違ってミステリアスな佇まい。より人間とウルトラマンの関係性を体現していた。
キャスト特筆はやはり、長澤まさみ。本作は長澤まさみを愛でる作品でもあった。
『エヴァ』のアスカ、『シン・ゴジラ』のカヨコ等しく、美しく、強気で出来る女。
樋口のフェチズムなのか、艶かしいアングルやショット。
巨大化したり、“残り香”を匂わしてくれたりの出血大サービス。
彼女が物語を引っ張ってくれた。
主軸は彼女を含めた禍特隊のドラマ。一癖ある登場人物らが織り成す物語は、ユーモアや緊張感、熱いものがあって飽きなかった。
『シン・ゴジラ』の世界観がそのまま『ウルトラマン』へシフトチェンジ。
リアリティーある自衛隊、政府描写。もはやお馴染みとなった早口台詞。
架空の組織である禍特隊すらリアルさを感じる。
謎の巨人が現れた日本の右往左往ぶり。国内外への体裁。外星人に翻弄される醜態。まさしく“今”を描いた皮肉。
リアリティーとSFが融合した世界観は、しっかりと本格SF…いや、“空想科学”として確立。
樋口の演出は『シン・ゴジラ』の庵野の演出を継承しつつ、何処かシュールな演出は、かの実相寺の演出を思わせた。
それが特に表れたのは、団地という我々の日常生活の中で神永とメフィラスの対話シーン。
『ウルトラセブン』での実相寺演出回で名作『狙われた街』で、ダンとメトロン星人がちゃぶ台を挟んで話すシーンへのオマージュ。
その直後の居酒屋シーンは、『怪獣酒場』…!?
(メフィラス役の山本耕史のクールな演技も良かった)
そう、ファンならニヤリとするネタがいっぱい。
まず興奮は、『シン・ゴジラ』での伊福部音楽使用と同じく、オリジナルの宮内音楽。前半から中盤にかけて(後半は鷲巣新スコア)、思っていた以上に使用。特に“科特隊のテーマ”が流れた時は高揚感満点だった。(出来ればフル尺で流して欲しかった…)
“音”もオリジナルそのまま。ここも『シン・ゴジラ』踏襲。
そうそう、『シン・ゴジラ』と言えば、アノ人が登場! 役名は出なかったけど、間違いなくアノ役だよね…? ひょっとして同一の世界観…? それともまさかのマルチバース…!?(実際、“マルチバース”という台詞はあったし)
あるシーンのマグカップの絵柄が、某魔法少女アニメのアイツ! 「僕と契約してウルトラマンになってよ!」ってか!?
超マニアックネタで個人的にウケたのが、対偽ウルトラマン。ウルトラマンが偽ウルトラマンにチョップし、手を痛がる。これ、分かった人、相当なマニア! かつてのザラブ星人回でウルトラマンのスーツアクター、古谷敏氏が偽ウルトラマンにチョップした時、本当に痛がったアクシデント。まさかそれを再現するとは…!!
マニアック過ぎて堪んねー!
今回のウルトラマンはベースはオリジナルのまま。でも、変更点も。
より長身でスラリとした体型。人によってはガリガリに見えるが、オリジナルより外星人である事を印象付ける。
初登場シーンは、シルバー一色。神永と融合してから赤身が掛かるが、これは人間の血がウルトラマンの体内に通い、心身共に融合したと思わせた。
そして今回のウルトラマンのデザインで最大の議論になっているのが、象徴的なカラータイマーが無い!
かなり議論になっているが、ちょっと待って! ちゃんと訳あり。
今回のウルトラマンのデザインは、かの成田亨氏による油絵“真実と正義と美の化身”が基。それにはカラータイマーが無い。
そもそもカラータイマーは、30分番組の展開上の都合から急遽付け足しされたもの。確かに2時間の長篇映画に絶対的に必要かと問われたら…?
カラータイマーの代わりに、体力の消耗や活動エネルギーの限界を示すサインはちゃんとある。
本作独自のヘンな改ざんではない。“シンプル・イズ・ビューティフル”。
でも、ウルトラマンはウルトラマンである。スペシウム光線発射シーンは、現代技術を駆使してド迫力!しびれた!
だけど今回、“シュワッチ!”と一言も発しない…。
一本の作品の中にバリエーション豊かなエピソードが並び、TVシリーズの醍醐味を濃縮。
でもやはり中心軸となったのは、人間、禍特隊、ウルトラマンのドラマだ。
今回、中盤辺りでウルトラマンが神永である事がバレるという意表を突く。
ウルトラマンを有すれば、どの国やどんな脅威も恐れる事ナシ。
逆にそれ以外の国や人間たちにとっては“敵”となる。
ウルトラマンの存在意義。
ウルトラマンの謎の一つ、巨大化にも今回は理由付け。ベーターシステム。
それを活用し、メフィラスは人類の巨大化によって禍威獣や他の外星人からの自衛を提案。
それは同時に、また新たな“兵器”にも成りうる。核と同様の…。
ウルトラマンは自分がこの星に降り立った事で、人間に危険な刃を持たせてしまう事に苦悩。
この星に降り立ってまだ日は浅い。人間の事もよく分からない。優れた判断出来る集団か、愚かな過ちを選んでしまう集団か。
が、人間を信じる。
それを委ねさせてくれたのが、禍特隊。
班長、仲間、そしてバディ…。
ザラブに拉致された時も、僅かな手掛かりから探し出してくれると信じていた。
メフィラスによる“ベーターボックス”の時も、彼らとのチームプレーを信じていた。
そして、ゼットン。初の敗北…。ウルトラマン一人ではとても太刀打ち出来ない。
ウルトラマンは神ではない。ウルトラマンも人間と同じ“命”を持つ生命体。
彼らを信じなければ、一世一代の作戦は立案出来なかった。ゼットンを倒す事も出来なかった。
『シン・ウルトラマン』は種族や立場を越えた、“信頼”の物語でもあった。
それに対するのは、まさかのゾーフィ!
“光の星”の掟で他惑星人との融合は禁じられ、それにより人類の巨大化=生物兵器への転用が知られ、地球の粛清が決まる。
ゾフィーが地球や人類を消す…? ゾフィーも光の星の正義のヒーローではなかったのか…?
オリジナルでゾフィーは“ウルトラ警備隊”の隊長。時に長は、非情な決断を下す事もある。決して悪の意思があってではない。掟破りは見過ごせない鋭いまでの正義。
正義というのは時に、脅威にもなる。
本作の場合、ウルトラマンが正義の光なら、ゾーフィは正義の暗部と言えよう。
ウルトラマンがこれほどまでにも地球や人間へ固執する理由。
自分がこの星に降り立った時、一人の人間が幼い命を守る為、我が身と命を犠牲にした。
その人間こそ、神永。
人間というものを知りたい。理解したい。
自分を犠牲にしてまで他者を守る行動は何なのか…?
神永と融合して、少し分かった。
禍特隊と共にして、少し分かった。
勇気。諦めない。愛。…
それが、人間なのだ。
それが出来るのが、人間なのだ。
TVシリーズとは違い、本作ではウルトラマンは地球に留まる事を選択する。
更なる禍威獣や外星人からこの星を守る為に。
共闘する事を誓う。
自分を犠牲にした神永のように。
彼にこの命を捧ぐ。
本作のキャッチコピーにもなっているゾフィーの名台詞。問う。
そんなに人間が好きになったか、ウルトラマン。
人間を信じ、愛したウルトラマン。
我々もそう。
ウルトラマンをいつまでも信じ、愛す。
遅ればせながら、なんとか劇場公開中に間に合いましたー。
いやー、凄いレビューの数ですね。
自分のレビューupしてから、皆様のレビューを日付が新しい順に遡って拝見している途中ですが、1週間かけてようやく近大さんまで辿り着きました〜。
いや、相変わらず重要ポイントを端的にまとめて下さっていて素晴らしいレビューですね。
ネロンガとガボラは山田さん、ザラブ、メフィラス、ゼットンは金城さんという脚本繋がりもありますね〜。コース料理の素材セレクトにはその辺りの統一性も加味されている気がします♪
ウルトラマンの正体がバレたあとの人間ドラマは、メビウスの時には若者らしい熱い友情が信頼を繋ぎましたが、今回はめちゃくちゃ「有能な大人」の神永。ロジカルな人間理解からスタートしつつ、次第に「情緒」という人間の特性を理解し惹かれていくところが面白かったです。
浅見、滝への「信頼」。描かれずとも、その信頼は田村や船縁に対しても同じでしょう。(浅見への好意が急上昇したのは、救出に来た時の彼女が思いがけないアクション派だった事のギャップがターニングポイントかと)
最後にリピアを助けたのは、ゼットンを連れてきたゾーフィではなく「ゾフィー」ではないか?と思ったのですがどうなのでしょうね。マンが「ゾフィー」と言ったように聞こえました。
素晴らしい!全編をその意味合いも含めて語り尽くすナイスレビュー! 読んでから行ったおかげで120%堪能できた気がします。このレビューも、観る前の私をワクワクさせる原因となってくれたレビューの一つです! ありがとうございました。
ゾフィーとゾーフィ?かなり気になりました。
とりあえず検索して来ます。
一言だけ言わせて下さい。
\\ 長澤まさみさんサイコー //
夜分にお邪魔しました。。。