「ウルトラマンは必ずしも正義の味方ではない」シン・ウルトラマン 9 NO.さんの映画レビュー(感想・評価)
ウルトラマンは必ずしも正義の味方ではない
封切りと共に鑑賞。自分は「ウルトラマンメビウス」や各ウルトラマンシリーズの名エピソードのみを振り返る「ウルトラマン列伝」の世代なので怪獣の代表格であるゼットンやメビウスのテレビシリーズや劇場版で出てきたザラブ星人・メフィラス星人以外の知識はあまり無いのだが、それでも充分に楽しめる内容だった。
開始と共にウルトラQやセブンでお馴染みの「ぐにゃ〜」と共にタイトルが出てきてこの時点で世代には堪らないと思うしウルトラマンを少ししか知らない自分もワクワクした。最初からいきなり画像によるダイジェストでこれまで何体かの怪獣が登場し人類がそれらに科学で対処したことが分かるが、新たに登場したネロンガとガロンは電気や原子力など人間の科学を貪り規格外の力で人類を滅ぼそうとする怪獣。人類が手出しができない詰みな状況にウルトラマンがまさに人類にとっての神のような存在として怪獣を倒す。
怪獣の後はザラブやメフィラスなどの外星人との闘いに移っていくがこれもまた面白い。特に山本耕史演じるメフィラスが大変魅力的な描かれ方で、最初だけ交渉を用いたが途中から神永の監禁と偽ウルトラマンに化けた自身による都市の破壊という「力による恐怖」で無理矢理人類を支配下に置こうとするザラブに対して、日本の諺を用いて友好的な面を見せたり、自分達の技術と引き換えに交渉をしたりとウルトラマンが邪魔をする最後の最後まで知恵と交渉で押し切ろうとするメフィラスの対比が良い。
また合間に挟まれるウルトラマンらしからぬギャグ(ピー音ワード、居酒屋のシーンでの「大将、おあいそ」「割り勘でいいか?」などのお前どこで覚えたんだよというメフィラスに愛着が湧いてしまうシーン)は外星人をただ害悪な存在として描いてない、目的は地球の支配でもあくまでただ住む星が違うだけの存在というのが分かって面白い。また、メフィラスを無理に倒さずゾフィーの存在を仄めかしつつ撤退させるという「人類への交渉に始まりウルトラマンとの交渉」で終わらせたのも個人的には好印象。(因みにメフィラスからその後に掛けてシン・ゴジラの登場人物である赤坂秀樹がサプライズ的な登場をし、劇場で幾つも息を呑む音が聞こえ、自分も心の中で大興奮だった。矢口達一同もどこかで忙しくやっているのだろうか。)
メフィラスが撤退したその後の物語は原作ファンの間で賛否が分かれそうと鑑賞中も薄々感じたが、いつも地球や宇宙のために闘うゾフィー隊長と光の国がまさかの地球を滅ぼす側に回り、しかもその方法にあのゼットンを怪獣としてではなく破壊装置として用いるという衝撃的な展開へと向かう。ゾフィーの反対を押し切りゼットンに挑むも一度目はまるで歯が立たずに終わり昏睡する神永マンと、メフィラスも言った「あまりにも規格外で圧倒的な科学力の差」に諦める禍特隊の瀧を始めとする人類。
だが神永の残したデータが瀧を再び立ち上がらせ、世界中の学者を主とした「人間」の叡智と目覚めたウルトラマンの力で破壊装置ゼットンを見事別次元へとワープさせることに成功。物語は元祖ウルトラマンと同じくリピアがゾフィーに人間の美しさ、素晴らしさを説きテレビシリーズでハヤタにしたように神永に自分の命を与えて神永が禍特隊が囲む中で目を覚まして物語は幕を閉じる。
変身やスペシウム光線、ゼットンのピロロロや回転時の不思議な効果音は懐かしさを感じさせ、ラストのウルトラマンが見慣れた赤背景をバックにいつものポーズで登場するシーンなど演出は大満足の出来ではないだろうか。戦闘シーンも特撮と現代の映像技術を組み合わせた素晴らしい出来になっている。エンドロールで流れる米津氏の「M87」もこのシン・ウルトラマンにマッチしていて、感動と共に一抹の哀愁や寂しさを呼び起こす素晴らしい曲である。
上述したギャグとシリアスのバランスも良く、メフィラスが公園で神永と語るシーンはある意味正論とも取れる理論、従来のウルトラマンではあまりされない(または踏み込まない)光の国を含めた外星人たちから地球や人類は資源や兵器として見なされるという割と容赦のないリアリティ、「地球だけでない他の星の政治事情」の描き方もこのシン・ウルトラマンだからこそできるオリジナリティがあって良かったポイント。
と、ここまで概ね称賛しか書いていないし実際に充分満足できる映画ではあるが、最後のゼットン戦がやや駆け足気味だったのと、この映画は人類の技術云々ではなくあくまでウルトラマンが何とかするという話なので、物語の目線も一般人や政治家・自衛隊・海外勢・巨災対など様々な目線で描いたシン・ゴジラに対してこちらの視点はほぼほぼ禍特対を始めとした神永マン・浅見がメインで主要な登場人物もそれほど多くないので、首都圏で完結していたシン・ゴジラよりもスケールは大きいのにその大きさが感じにくくなってしまっているのが玉に瑕。(まあ虚構のゴジラを災害に見立て、徹底的に現実を描いたシン・ゴジラに対しウルトラマンはあくまで「空想特撮」なのでそれが正しいという捉え方もできるが)
ラストも「行ってきます」を「おかえりなさい」で締めるのはグッと来るし、神永に敢えて台詞がない事で神永自身の記憶はどうなっているのかなどのエヴァやシン・ゴジラを始めとした庵野作品らしい「物語のその後」の考察の余地を残しているのは良いが、やはり「ウルトラマンが死ぬ」という終わりなので、シン・ゴジラの一時的にでも完全に決着が着き不気味さを残しつつも、一応は笑顔で終わるというスッキリしたラストに比べて少し哀しげ、物語的にはハッピーエンドでも観客にとってはメリーバッドエンドというのは賛否が分かれるポイントかなという感じ。自分もどちらかというと神永に「ただいま」などの台詞があればもう少し清涼感が持てたかなというのと、でもそれは観客の自分がカタルシスを得たいだけの我儘なのかという思いの狭間で揺らいでいる。
何にせよ物語的には従来のウルトラマンファンなら尚更、絶対に見て損はしない映画であるということを書いてレビューを終わる。
素晴らしい!ナイスレビューですね!!
読んで、すごく楽しかったです。繰り返しになっちゃうけど凄いレビュー!
> ラストのウルトラマンが見慣れた赤背景をバックにいつものポーズで登場するシーンなど演出は大満足の出来ではないだろうか
大満足です。いいとこ、つきますね。その他さまざまな箇所にコメントしたいな。