「生きていける未来」his 琥珀さんの映画レビュー(感想・評価)
生きていける未来
なんの予備知識もなく、他に見たい映画がなくて鑑賞した『愛がなんだ』でいきなり顔面パンチを喰らったように唸らされ、その次は期待たっぷりで観た『アイネクライネナハトムジーク』であの練り込まれた原作をこう料理したのかと唸らされ、迎えた今回の『his』。製作していたのも知らないほどに予備知識無し、けれど期待はMaxで公開初日の金曜日に鑑賞。
うーん、やっぱりまた唸ってます❗️
主要人物の男女3人+女子児童ひとり、やたら人懐っこい五右衛門(あの飼い主なのでたぶんゴエモンではなく漢字名)。いずれも私にとっては名前も知らなかった人達とワンチャンでしたが、心からエールを送りたくなりました。
誰にだって
わけがあって
今を生きてる
私にだって
わけがあって
ギターを弾いてる
あいみょんさんの楽曲(小松菜奈さんと門脇麦さん主演の『さよならくちびる』の中でコンビ名ハルレオが歌ってました)でそんなフレーズがありました。
3人の男女ともそれぞれ、ひとどころか家族にも言えないような〝わけ〟があって、およそ望んでた形とはまったく違ってる〝今〟を生きてる。
個人的に抱いているだけの偏見や差別的考えを、あたかも世間一般的な〝常識〟や〝良心〟の代表者であるかのように振る舞う人間の醜さは、これまでも色々な映画で描かれてきています。そしてまた相手方の欠点を抉り出すこの映画の弁護士のような責め口についてもどこかで見たことがあります。
私が唸ったのはそのあとです。
和解を求める渚の妻への謝罪のシーンです。
訴えている内容は、ありきたりといえばありきたりなのですが、『自分の居心地の良さを優先し、かつ、それを壊したくなかったことで(具体的には子供と仲良しなのは自分だけという状況を失いたくなかった)、妻が頑張る姿や良いところを見出だす努力をしなかったこと、いや、本当は見えていたのに見ないふりをしてきてたであろうこと』を正直に告げたことです。
弁護士2人、特に戸田恵子さん演ずる女性弁護士の口撃が凄かったのを見せつけられた直後のことだったので(松本若菜さんは演じなくても本当に泣いちゃったのでは、と思わせるほど)、その対比が余計際立ちました。
他人の欠点をあげつらうことに多くの言葉を使うことに比べて、他人の良いところを見つける少しの言葉の愛おしさと優しさと慈しみ。
この劇的な転回によってそれまでの夫婦のしこりの感情が雪解けして一気にめでたしめでたし、としないところも、この監督の凄いところだと思います。現実世界と同じで、一時的な感情や感動はどんなに強いものであっても長続きしないし、それで単純に解決することなどはないということもしっかりと描き切っているのです。
でも、それぞれの〝わけ〟をそれぞれが理解し、到底納得などはできないことであっても、それでも現実的に受け止めることができれば、なんとかそれぞれが生きていける未来はやってくる。明るいかどうかも定かではないけれど、たぶん、いや、確かに生きていける未来。
そんなことが十分伝わってくる、観てよかったと心から思える映画だと私は思います。
琥珀さん、コメありがとうm(__)m現実の中でも、当事者になると解らなくなる事って多々ありますよね。そんなときは『五右衛門』の視点が必要なのかもしれませんね。いくつになっても自己中心的で生きている私は一歩引いて概要を知ることが出来ないので、肝に命じたいと思います。
コメントありがとうございます。
いい映画でしたね。
私も、愛がなんだとアイネクライネはとてもお気に入りです。
この映画も淡々と奥が深い。
最後のセリフもよかったですね。
明日思い返せばもっといい映画なのだろうと思います。