「真実が脅かされたとき」オフィサー・アンド・スパイ Masuzohさんの映画レビュー(感想・評価)
真実が脅かされたとき
ドレフュス事件
19世紀末普仏戦争で
プロイセン帝国に負けるも
その後の経済復興に沸くフランスで
起こった国家権力の腐敗を
露にした冤罪事件
背景には敗戦からくるプロイセンへの
憎悪を煽る急進右派と
宗教的背景からくる
ユダヤ系移民に対する元来的な
レイシズムが引き起こしており
この事件後にユダヤ系移民で
起こったエルサレムの地を
取り戻してユダヤ人の権利を
侵されぬ国を持とうという
「シオニズム運動」から
イスラエル建国につながった
事件と言える
ユダヤ系出身のロマン・ポランスキー
が扱うのは当然であろうテーマで
世界史の教科書で見たような
サーベルを公衆の面前で折られる
有名なカットを完全再現するなど
していました
国家権力の暴走がもたらす
恐ろしい事を多面的に内包しており
非常に考えさせられる映画でした
話は
国家機密漏洩罪で有罪となり
軍籍を剥奪されたユダヤ人の
ドレフュス大尉が無実を訴えつつ
孤島に収監されるシーンから始まり
その様子を複雑に見つめる
軍学校でドレフュスに指導していた
ジョルジュ・ピカール大佐の姿から
話が始まっていきます
ドレフュスはピカールにとって
軍学校で点数を低くつけた時に
私がユダヤ人だからかと問い詰めて
きたりする「めんどい生徒」で
あった事を覚えているものの
自分としてはそんなつもりはなく
公平に務めていたつもり
そんなドレフュスがその
機密漏洩に関する疑惑を持った時も
ピカールはそうなのだろうと
思っていましたが
そんな彼に防諜部トップへの
転属指令が来ます
前任者が梅毒になり
業務不能となった事に
よるものです
防諜部はその名の通り
フランス軍の機密漏洩に関して
目を光らせる部署ですが
ピカールが着任してすぐ気が付いた
のは役立たずの守衛や昼間から
遊んでいる工作員等の姿
前任者から続く部下アンリも
独自に私文書を入手し処理
しているなどどうも怪しい感じ
ピカールは前任者を訪ねると
病床ながら調査に関する資金と
スパイ疑惑のある軍人のリストを
渡され「真実を暴け」という
ニュアンスの助言を受けます
手始めにピカールは
・役立たずの守衛や工作員はクビ
・文書はまず自分の所に持ってくること
・信頼できる警察官と組む事
など組織改革を行います
ピカールが調査を進めると
そもそもドレフュスが対外的に送った
軍事機密に関するメモは筆跡鑑定人が
ドレフュスと一致したからという理由で
有罪となったと言われているが
調べていくとスパイリストにもあった
エステラジーという軍人の書いたもの
であるという事実をピカールが
突き止めます
そもそもドレフュスがスパイに加担する
金銭的問題を抱えていたわけでもなく
そのメモ以外何ら証拠がなく有罪に
された事について驚きます
ちなみに軍がドレフュスを陥れようと
するシーンについてはもう客に
明かされてしまいます
上層部もアンリもグルで
ユダヤ人のドレフュスに罪を
擦り付ける気マンマンなとこは
ハッキリしてます
(このシーンの挿入については
もっと後でよかったかな)
ピカールは真実の追及に基づき
エステラジーが追及されず
ドレフュスが陥れられた理由を
たどっていくと将軍に呼ばれ
この件に触れるなという
「命令」を受けます
ピカールは真実を曲げることは
できないと突っぱねると将軍は
防諜部に来てドレフュス
(が書いたことになってる)
メモをアンリと組んで持っていき
翌日に新聞の一面にその文書が
大々的に公開されピカールは
「機密を漏洩させた罪」に問われ
査問を受けます
そしてかねてより関係があった
外務大臣の嫁さんとの関係も
暴露され完全に報復を受けます
国家権力が完全に腐敗して暴走
それでも自分が軍人ですから
八方ふさがりと思ったピカール
ですがそこで名乗り上げたのが
ユダヤ人作家のエミール・ゾラや
オーロール紙などの民間メディアが
ずっと名誉回復運動を続けていた
ドレフュスの弟などと共に協力を
申し出ます
もはや自浄が困難な巨大組織の
是正は外的に行うしかありません
この時にゾラがオーロール紙一面に
乗せたフランス軍を相手取った
この冤罪事件に対する告発文
「J`Accuse(私は弾劾する!)」
によって世論はフランス軍が正しいか
真実の追及かと二分されます
(原題がこのJ`Accuseなんですよね)
月日は費やしたものの
これらの努力によりピカールらは
ドレフュスの再審まで勝ち取ります
とはいえ
19世紀といってもまだ原始的であり
ピカールがアンリが文書を捏造したと主張
アンリは捏造などしていないという主張
の正解を「決闘」で決めるなど原始的な
事が行われます
結局ピカールはそれでも勝ちますが
アンリは収監先で自殺し真相は闇の中
状況的には完全に軍の捏造で裁判を
進めれば進めるほど軍が不利なのに
弁護士を暗殺されたりして
結局ドレフュスは完全な無罪を勝ち取れず
禁固刑を食らいます
印象的だったのは
もう罪を認めた方がドレフュスは早く
家族に会えるのにと言われても
ピカールは
「それでは意味がない彼は無実なのだから」
と意に介さなかった部分
月日を惜しんで真実を曲げてしまう
可能性もある場合があると言う
恐ろしさも描写しています
ドレフュスは禁固刑後軍務に復帰し
大臣となったピカールに面会を求め
要求した事は「剥奪期間中の階級の回復」
あんたその間に大臣になったんだから
という事で相変わらずの「めんどくさい奴」
ぶりを発揮しながら変わっていない姿に
ピカールは私の立場は「君のおかげ」と
不思議な感謝をして終わります
この事件の要点をまとめておくと
この事件のポイントは
・ドレフュスは完全に証拠不十分の冤罪
・軍は機密情報漏洩を盾に罪を着せた
・では何が機密情報かは客観性ナシ
・真犯人は国外逃亡
と国家のさじ加減でどうにでもなってしまう
民主主義国家であっても十分ありえる
事が19世紀にもう起こっていたこと
今でも国税局の職員の給付金詐欺の
真犯人なんて納税してる立場からすれば
なにがなんでも見つけ出して晒しものにしろ
と思ってしまいますが
どーせ公務員は保護されます
なんか最近だとマスコミも
擁護するじゃないですか
マスコミは一回滅ばないといけません
身内の不祥事に甘い奴らなんて現代も
変わらないのだからこの映画を観ると
昔の話ながら全く身に迫る思いに
なってしまうと思います