劇場公開日 2019年11月29日

「他人と生きていくという事」マリッジ・ストーリー しずるさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0他人と生きていくという事

2019年12月17日
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悲しい

まず、タイトルが秀逸。離婚を決意した夫婦が、カウンセラーの勧めで、互いの長所をリスト化していくシーンから物語が始まる。タイトルからぼんやり思い描いていた『結婚』から、一足飛びに『離婚』に吹っ飛ばされて「えっ!?」と驚かされるが、物語が進んでいく内に合点がいく。離婚に至った2人の気持ちのすれ違いや、エゴのぶつかり合い、単純に割り切れない感情を見せる事で、『結婚』というものの形を掘り下げていく。

人間の心理の描き方がとてもリアル。妻として母親としての役柄のみを求められた女が、一人の自立した人間としての価値や評価を欲する思い。女の感情や感覚面を理解せず、理論と合理性で相対して、それが受け入れられない事に困惑する男の図。間に他人を挟んだ途端、誇張や疑念で事態が想定外に泥沼化していく構図。コントロール出来ずに相手に振り下ろした悪意が、自分をも傷付けて苦しむ辛さ。あるある、解る…、と頷けるものばかり。
それだけに、ああ、それは言ってはいけない一言、踏んではならない地雷、ほんのちょっと譲歩ができたなら…とヤキモキしてしまったが、その理性が働かない程近いのが家族という関係。あまりに苦しさを覚えるのならば、少し離れて距離感を図り直すのも、ひとつの方法なのだろう。

終盤に挟まれる、『Being Alive』の歌詞が奥深い。
誰かが私を求め過ぎ、深く傷付け、椅子を奪い、眠りを妨げる。しかし時に支えもする。孤独は孤独でしかなく、生きているとは言えない。
まさにそれが、『結婚』に限らず、他者の中で生きていくという事だ。
それに疲れ果て、諦め、救われて、誰かの手を取り、振り払い、また求めながら、とぼとぼ歩いていくしかない。

夫婦の立場や思いを対比対立させる方法や、裁判シーンの応酬、冒頭の誉め合いや喧嘩の台詞のやり取りなど、脚本や構成に、とても芝居っぽい印象を受けた。
エピソードやビジュアルをもう少しシェイプアップして、舞台という、余白多めの表現手段を選んでも、違う消化の仕方ができていいのではと思った。

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しずる