「こんな映画を見た。」ホモ・サピエンスの涙 レントさんの映画レビュー(感想・評価)
こんな映画を見た。
全編ワンシーンワンカットという独特のスタイルでまるで絵画を見てるような本作。興味がわいたので過去作の「さよなら人類」と「散歩する惑星」もこの機会に鑑賞。この監督のスタイルはすべて同じようで、ただ本作は他の作品に比べてコメディ色が少なく、芸術作品寄り。この監督の作品のテーマはすべて一貫している気がする。
天からの視点でとらえたかのように人間の悲喜こもごもを描く本作。キリストからヒトラーまで、人類史を俯瞰して見せているようで興味深い。ヒトラーもキリストもそして市井の人々もすべて同列に描いている。
街でばったり会った学生時代の友人の出世が癪に障る男、信仰心を失い嘆き悲しむ牧師、名誉殺人を犯してしまった男、問題を抱えて仕事にやる気が出ない歯科医師、ハイヒールのかかとが折れてしまった女性、今まさに処刑の瞬間に命乞いする男、すべてが素晴らしいとバーでつぶやく男、シベリアの収容所に送られる捕虜たちなどなど様々な人間模様が描かれる。
他人からすればとりとめもない悩み、しかし本人にしてみれば深刻。自分が何を求めてるのかわからないと混雑する列車内で泣き続ける男に乗客の男は家で泣けという。泣くことも許されないのと同じ乗客の女性がかばう。
そんな些細な人間の悩みから第三帝国の野望がついえた独裁者の絶望まで、様々な時代や場所で起きた事象を淡々と描く。
とりとめもない出来事から歴史的な出来事まですべてが同列に描かれ、人類の行いが所詮天から見ればどれも些細な事とも思えてくる。達観したような思いにさせられる、しかしけして上から目線ではない。人間というものが愚かでもあり尊いものでもあるように感じられる。
人間の愚かさも素晴らしさも同列に描いていて人間存在に対する監督の深い洞察が感じられた。
作品はとても短くて唐突に終わる。この上映時間が観客が集中力を保てる限界だと思ったのか。個人的にはハマってしまったのでもう少し見たかった。そういう方にはほかの過去作をおすすめします。