「春画展開催への挑戦」春画と日本人 Imperatorさんの映画レビュー(感想・評価)
春画展開催への挑戦
終映後のトークで、何が「春画」かについて、一つの定義が可能だと聞いた。“検閲”印が押されているかどうか、というのだ。
検閲されていれば、とりあえず版元が“出版可能”と判断し、お上に見せて認められたということ。“あぶな絵”でも、検閲印があれば「春画」ではない。
一方、享保の改革以後の「春画」は、検閲印がない。店頭販売がNGになり、ウラで“貸本屋”などを通じて流通したようだ。
本作品は、2015年の展覧会にまつわる関係者のインタビュー映像を中心に構成される。
大英博物館で開催され、出版物は国内でも解禁になっているにもかかわらず、なぜか、現物を公開することができない。
関係者は、できれば“東京”で開きたいと挑戦を続け、永青文庫で実現する。そして、春画の将来のため、“絶対に失敗できない”という覚悟で、徹底的に準備する。
“忖度”による自己規制。しかし、何におびえていたのか?
結果的には、21万人もの観客で、うち女性が55%だったという。
女性が特に春画好きということではないはずで、一般に展覧会には女性の方が多い。むしろ、面白いアートとして、何事もなく受け入れられたということが重要だろう。
とはいえ、自分も行ったのだが、絵を見ていただけなのに、近くで見ていた女性になぜか睨まれた。彼女は何か恥ずかしかったのだろうか。
春画の扱いを巡る業界の歴史なども触れられる。
江戸の大名との関係や、縁起物であるという文化。
明治以降の、法的あるいは美術的な位置づけ。
在野の艶本研究者・林美一氏の「国貞裁判」。
当時40代だった辻惟雄氏や小林忠氏ら4人による、無修正画集の出版。
慶応大学や国際日本文化研究センターのコレクション。
そして、ピカソと春画の関係も・・・。
90分のドキュメンタリーとしては、しっかり楽しめた。
ただ、アートの映画とは言えない。春画の内容を、掘り下げて解説するシーンはない。版画技術にも、軽く触れられるのみだ。
また、「春画と日本人」という題だが、そこまで内容は深くない。
「春画展開催への挑戦-現代日本社会の自己規制をめぐって-」という題名の、社会ドキュメンタリーと考えた方がいいと思われる。
自分は、これまで春画は局部よりは、ハッピーそうな顔の表現や、それを覗き見る滑稽さの方を楽しんでいた。春画の登場人物たちは、生き生きしている。
だが今回、改めて見ると、版画における“陰毛”表現に感心した。ランダムな方向に伸びる毛を、凸版で、あれほど密度濃く彫るとは、驚異的である。
名だたる浮世絵師で、版画あるいは肉筆で、春画を描かなかった人は、ほとんどいなかっただろう。
この映画で、話題になった展覧会を振り返りながら、日本の性文化、その建前と実態の歴史、アートや滑稽本としての春画の楽しみ方について、勉強するのも悪くない。
ただし、もちろん◆18歳未満入場禁止◆であり、「DVD販売の可能性もありません」(公式サイト)とのことだ・・・。