「詮索しない。 深入りしない。」キッチン きりんさんの映画レビュー(感想・評価)
詮索しない。 深入りしない。
ひとはひとで、私とは決定的に異なる世界の存在。徹底して他人は他人なのだと、この希薄で生活感のない映画は見せてくれる。
二つのキッチンが映る ―
祖母の死んだ家の台所は極めて普通の、少し古い日本家屋のそれ。
対して雄一の函館のデザイナーズマンションのキッチンはスタイリッシュ。
どちらが人間の生活臭がするかと言えば、意外にも後者だろう。
祖母の台所は、もう使う人がいなくなった死んだ台所の姿になってしまっていたから。
火の気が無く、パパイヤにレモンを絞るだけの台所だから。
桜井みかげは
墓標のような冷蔵庫から水を飲み、祖母の仏壇にお茶ではなくガラスのコップで水を供える。
封切り時に原作も読んだが、天涯孤独のみかげの、火の消えた心象風景がよく描かれていたように思う。
原作者吉本ばななは、あの舌鋒鋭い評論家吉本隆明の娘だ。
評論家の家に暮らして、少なからずその影響を受けただろう。
即ち人間を突き放して冷静に観察する目だ。
何十年ぶりかに観たこの映画。
初見時は、新しい時代の匂いを感じてスクリーンに釘付けだった。
トレンディドラマの先駆的作品。
森田芳光の
「家族ゲーム」「刑法第三十九条」と「(ハル)」に続けて今回再鑑賞した訳だが、やはり共通して特徴あるあの抑揚をおさえた台詞回しがとても面白い。
監督が役者たちに求めるどこか学芸会ふうの構図。ぎこちない会話や、歩き方や、表情の見せ方は、森田らしくて好み。
現代美術館のような、実用には適さないように一見見える豪邸のキッチンではあるけれど、いやいやどうして、
・雄一のために母親になった絵理子さんの冒険と、
・助け・助けられる関係で料理を作り始める桜井みかげと、
・絵理子を邪魔者扱いして実家から出ていく決心をする雄一と。
キッチンを核に、食を共有することで命が再起動する感動は、十分に映し出されています。
ほら、みかげが最初に作ったのは、(病み上がりの病人に食べさせるための) お粥でしたよね。
シトロエンのステーションワゴン、
雄一の襟の刺繍、
浜美枝のごっつ魅力。
こんな新しい再発見もありました。
・・・・・・・・・・・
サウンドトラックのテーマは、本作に遡ること6年の「戦メリ」のテーマ曲(坂本龍一)に瓜二つなのだが、問題にはならなかったのだろうか。ちょっと気になった。