「“ドピュッ”の結晶」言えない気持ちに蓋をして いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
“ドピュッ”の結晶
“OP PICTURES+フェス2019”作品群の1作品。
着想の相似点はアニメ映画『心が叫びたがってるんだ。』ではないかと思った。初めはその部分は匂わしてはいないのでそういう意味では上手く脚本が練られている。と、勝手に想像しているのだが、もっとこのコンセプトに似ている作品があるかもしれないが、直近で自分が鑑賞した中ではの話である。心にトラウマを持ってしまい、その原因が自分の不用意の言葉と思い詰め、失語症的(完全なモノではない)な状態に陥り、その日々の生活の中で苦しみながら周りの人とのコミュニケーションや軋轢の中で徐々に和らぐというストーリー構成で、クライマックスは主人公が言葉を発するシーンというパターンは一応の物語的造りであろう。その中で周りのサブストーリーも同時進行しながら、話の厚みをつけていく進行である。ピンク映画館でのバージョンは未鑑賞なので比較は出来ないが、15Rバージョンでは主人公が結局性交をやっていないところが面白い。妄想でのペッティングや自慰のシーンはあるのだが、濡れ場そのものは元同僚のバイトの女と、主人公の叔母にあたる居酒屋店主の妻のみである。多分、激しいのでカットしたのだろうが、逆にそのチグハグさが奇妙なスパイスとして作品を面白くしている。胸が揺れるスーパースローはギャグシーンにしたかったのだろうが、この意図は失敗であろう。そのシーンへのフリなんてなかったのだから。必然にしたければ、スーパースローじゃなければ意味がない演出のシーンを前フリに挿入すべきである。奥さんの方の車内結合シーンの顔に掛かる強烈で狭小の西日の演出は大変良かった。あの狭い光で、奥さんの卑猥さや叙情等の心の機微が巧く表現されているからである。まぁ、あくまでもピンク映画なので濡れ場をこしらえないと駄目だという制約がある限り、その必然性を担保するには、女性が夫の浮気の責任の一翼を感じてしまう建付けでないと進まないからだ。こういう所も或る意味、現代と反する“ファンタジー”なのかも知れない。実際のリアルでは、妻は100%責任なんて感じやしないし、それで当然なのであろう。幾らパッシングされたからと言って殴っちゃ駄目なことと同じである。色々と微細な部分での強引さは鼻につくが、毎年思うに、この企画のテーマというかコンセプトの乱雑さが目立っているように思える。物語としての完成度と濡れ場の頻度のブリッジが馬鹿になっていて、大変バランスが悪いと感じてしまうのだ。まぁ前述のように作品自体がファンタジーであり、妄想の成れの果てだと言ってしまえば何も言い返せないのだが、多分、その手のストーリー展開としてはエロ漫画の方が数段上に感じてしまうのは自分だけだろうか・・・特に今作品に於いては学生時代に友人を自死へのトリガーになってしまった(と苛む)主人公が、同じリストバンドをしている元同僚との通い合いが主軸なのに、ドラマティックな絡みのシーンが少ない。リストカット痕を想像していた主人公が、ラスト付近のネタ晴らしで、思い違いだったという部分も、笑い話ではない方向へもっと昇華できたアイデアではなかったのだろうか。雑な性交シーンはAVとは明らかに低クオリティさが滲み出て、役者陣の演技のレベルを疑うばかりである。アイデアそのものは昨今のメンタル問題を提起していて興味深かかっただけに、表題の通り、綺麗に結実して欲しい内容であった。