「どうして笑っていられるんだろう」トップガン マーヴェリック うそつきカモメさんの映画レビュー(感想・評価)
どうして笑っていられるんだろう
実際に今も、この地球のどこかで戦争が起きていて、ニュースで見せられる映像と映画ではやはり感じるものが違う。
政治的な背景や、戦いの大義それらすべてをすっ飛ばして、娯楽作たれ。
もちろん映画なんだから当然の方針だろうけど、やっぱりタイミングってとても大事だと思う。
前作がヒットしたのもタイミング。今作が予定通り公開されていたとしたら、もっと大きな反響を得られていたかもしれない。コロナ禍の影響で公開がどんどん伸びて、それでも劇場での公開にこだわった結果、現実に戦争がおきてしまうなんてさすがにトム・クルーズにも予測できなかっただろう。
疑問に感じたのは延期されている間に、内容のブラッシュアップは出来なかったのかということ。
巧妙に、敵の国名や所在地などはごまかしてある。アメリカ的価値観で戦争を捉えると、人命が大切だと訴えているようで感動的だが、実際にこれほど簡単に人が死んでいるのを見聞きするようになると、戦争ってやっぱりきれいごとじゃ済まされないと思い知る。
映画と現実は、かくも違うものなんだと割り切って楽しめるのならとてもいいお話だと思う。
それから、前半部分でのトムの薄笑いが気になった。余裕の表れなのか、なつかしさと親愛を込めたファンサービスなのか、どんどんひどい境遇に追い込まれていく自分をあざける自虐なのか、つかみどころのないキャラクターになってしまい、共感できなかった。
本来なら、とても困難な状況をもがき苦しみながら、生き残っていくような過酷なものであるはずのトップガンたちの日常が、まるでビーチバレーでもやっているかのような楽し気な演出で薄まってしまう。現に主人公のマーヴェリックはかつて相棒を訓練中に亡くし、そのトラウマに苦しんでいるはずなのに表面上は余裕の笑みを浮かべている。
内容にまで深く入り込んでいるはずだから、当然このキャラクターの造形にはトムの意志が強く反映されている。どうして笑っていられるんだろう?
2022.6.5