「トム・クルーズは正真正銘のスター」トップガン マーヴェリック ありのさんの映画レビュー(感想・評価)
トム・クルーズは正真正銘のスター
なんと36年ぶりの続編である。主役のマーヴェリックを演じたトム・クルーズは相変わらずの格好良さで、伝説のパイロットとしてのカリスマ性を存分に見せつけている。普通これだけの年月が経つと主役を次世代にバトンタッチして本人は後ろで引き立て役に回るものだが、現役アスリート俳優でもある彼にそんなセオリーは通用しないようだ。
「ハスラー」の25年後に製作された続編「ハスラー2」と比べてみるとよく分かる。「ハスラー」で主役を演じたポール・ニューマンは、続編では若きトム・クルーズにかつての自分を重ねて一流のハスラーに育て上げようと熱血指導していた。その姿には老いによる衰えという哀愁が漂っていた。それと比べると本作のトム・クルーズの若々しさと言ったらない。映画冒頭から早々に”現役続行”を宣言してやる気満々である。しまいには上官から諫められる始末である。ポール・ニューマンも本作のトム・クルーズも年齢は60歳前後とほとんど変わらない。それなのにこの差である。
これは正にトム・クルーズだからこそ成り立つドラマだろう。「ミッションインポッシブル」シリーズで本気の肉体アクションを見せる彼にしか、この説得力は生み出せない。そういう意味では、正にトム様のトム様によるトム様のため映画と言えよう。スター映画然とした作りが実に潔い。
物語は、マーヴェリックと新人パイロット、ルースターの確執を軸に、かつて交際していたシングルマザー、ペニーとのロマンス、かつてのライバル、アイスマンとの友情などが流麗に語られている。
中でも、ルースターとの確執は中々ドラマチックで感動させる。前作を観た人なら分かると思うが、ルースターの父親は、マーヴェリックの親友グースである。彼は訓練中の事故で亡くなってしまった。その遺児であるルースターとのやり取りは、前作を観ていると感慨深いものがある。
この他に、前作の名シーンが幾つか再現されており、オリジナルに対するオマージュがふんだんに盛り込まれている。そういう意味では、予め前作を観てから鑑賞するのが吉だろう。その方が何倍も楽しめると思う。
懐かしいと言えば、前作の劇伴やケニー・ロギンスが歌う「デンジャー・ゾーン」といった楽曲も流れてくる。ファンであれば感涙ものであろう。前作のサントラはリリース当時、映画共々大ヒットを飛ばした。
アクションシーンにも大いに興奮させられた。今回のミッションは、タイムリミット感を持たせた高難易度作戦で、それを若いチームでどう攻略するか…というのが見どころとなる。任務達成までには幾つもの難関が待ち受けており、それが訓練のシミュレーションを用いて周到に説明されている。結果、作戦の流れが理解しやすく感情移入もしやすくなっている。
加えて、実戦になると訓練では予想できなかったようなアクシデントが発生し、観客は更にハラハラドキドキするという仕掛けになっている。アクションシーンとして実に申し分ない盛り上がりを見せてくれる。
ただ、さすがに終盤の展開はいくら何でも雑すぎるという気がした。エンタテインメントとして割り切ればご愛敬と言えるかもしれないが、引っ掛かりを覚える人がいても不思議ではない。
また、ルースターを含めた新米パイロットたちの成長が今一つ分かりづらいという側面もある。これはドラマをマーヴェリック近辺に集中し過ぎた弊害であろう。そこはスター映画のドラマ作りの宿命とも言える。
キャストでは、久しぶりにアイスマン役のヴァル・キルマーを観れて嬉しかった。彼はここ数年、咽頭がんに悩まされて病に伏していたということである。決して万全の体調ではなかったと思うが、再びこうしてトムと共演したことに胸が熱くなってしまった。