「いくつか「弱い部分」はあるけど、『トップガン』世界への没入が全ての問題を克服する一作。」トップガン マーヴェリック yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
いくつか「弱い部分」はあるけど、『トップガン』世界への没入が全ての問題を克服する一作。
『トップガン』と言えばこれしかない!という、ケニー・ロギンスの歌に乗せた戦闘機の発艦シーンで、観客は上演開始からいきなり『トップガン』の世界に叩き込まれます。まだトム・クルーズも登場しない段階でこの「揚げ感」はすさまじい。オープニングだけで選ぶとしたら、本作は間違いなく今年のベスト5には入るインパクトです。
戦闘機がまるでダンスのように舞う空撮映像も、座席が振動するほどの音響と相まって極上の臨場感。前作(1986)に登場した、F-14トムキャットの映像映えするシルエットと較べると、本作で主役を張るF/A-18ホーネットはちょっと地味な印象を受けるんだけど、いったん大空に舞おうものならそんな先入観はどこへやら、観ているこちらも画面に合わせて自然と身体が動いてしまいます。2Dでこれなんだから、4DXで観た日には気絶するかも…。
前作の登場人物がその後どのような人生を歩んだのか、こまかな説明や回想場面は最小限にして、「もう既に過ぎ去った出来事」として語るにとどめているのですが、具体的な状況は分からなくても目の前で展開するドラマで十分感情移入できる作りとなっています。主人公のマーヴェリック(トム・クルーズ)とブラッドリー(マイルズ・テラー)は、『クリード』(2015)や『コブラ会』と同様、一種の師弟関係ではあるんですが、過去の経緯で鬱屈を抱えています。そんな二人の関係がその後どんな経過を辿るのか、おおよそ予想は付きつつも、それでも彼らの関係が際立つクライマックスは手に汗握ってしまいます。さらにアイスマン(ヴァル・キルマー)はじめとした前作キャストにも、丁寧に見せ場が用意されていて、この隙のなさもまたさすが。さらにラスト近く、もはや出番はないと思われていた「あれ」にまでスポットライトが当たるあたり、特に前作ファンは感涙でしょう。
どこを切り取っても見せ場しかない本作だけど、一方で物語の設定としては、「世界の警察」としての米国の「正義」を何の疑問も差し挟む余地なく持ち出しているあたり、特に現在の世界情勢を踏まえると、ちょっとひっかかるものがあります。こういった「正義の米国」像は既に映画では相対化されたものだと思っていましたが…。もし本作の監督を、亡くなったトニー・スコットから兄のリドリー・スコットが引き継いでいたとしたら、もしかして『ブラックホーク・ダウン』(2001)みたいな映画にしてたんじゃ。もちろんジョセフ・コシンスキー監督はそんな要素を一切入れていないんだけど。
それと本作は、前述の『クリード』と同様、かつての英雄から次世代の若者への継承の物語でもあるはずなんだけど、本作のマーヴェリックは相変わらず超人すぎて、若手エース達の出る幕がなくなっており、結果として成長物語としての要素はちょっと弱くなってしまっています。トム・クルーズの「俺様映画」として観れば満点なんだろうけど…。このあたり、『スペース カウボーイ』(2000)のクリント・イーストウッドのように自らの「老い」を積極的にネタにする余裕を持って欲しいところ(バーでのエピソードで微妙に「ネタ化」してたけど)。
トム・クルーズの狂気とも言えるような役作りの徹底ぶり、徹底的に鍛え上げた肉体美など、もはや見慣れた感のある彼の佇まいですが、ラストシーンで彼とジェニファー・コネリーは、人類ではなくエルフ族であることを確信しました。
前作同様ケニー・ロギンスを大々的に使っているんだから、「ベルリン」も登場すると思っていたんだけど、解散したからかお呼びがかからなかったみたい。ここは期待していただけに、残念!