「王道でも作り良ければここまで響く、傑作」トップガン マーヴェリック 映画読みさんの映画レビュー(感想・評価)
王道でも作り良ければここまで響く、傑作
とても面白かった。
ストーリーはこの手の映画において王道に王道もいいところで、
ハリウッド脚本的には教科書通りと言っていいほどの内容。
ほぼ開き直っており、終始「先の展開も予想できる」と感じながら観たし、実際そうだった。
しかし、そうであることが全然「退屈」に繋がらず、減点対象と思わせない作り。
終始、とにかく興奮~感動しっぱなしなのである。
シーンの繋げ方がうまくて、終始「観客の気持ちを狙った方向に乗せる」のがとにかく上手。
脚本的に、珍奇性による言い訳や誤魔化し、「開発側からの見方のお願い」が無いまま、
気づけば、マーヴェリックたちをハラハラしながら見守り、応援している自分がいる。
捻りに捻った脚本とか衝撃の結末という言葉とは無縁の映画だが、
シーンのわかりやすさ、感情移入と没入感の構築・維持という、
物語コンテンツにおける最も大事なものを最も大事にしてやりきった完成度。
なぜこんなことができるのか?
それは、関係者たちの普遍的なヒューマンドラマへの造詣の深さゆえだろう。
製作総指揮トムクルーズも、ここまで高度に映像的な作品を作っておいて
「ストーリー・イズ・キング」(脚本が最重要)と明言するだけのことはある。
1作目を観ていなくても、
そして今でなく10年後や20年後に観ても、
興奮あり涙ありで楽しめる普遍的な傑作の1つであると感じる。
『ローマの休日』や『サウンド・オブ・ミュージック』のような、
地域性や時代性にとらわれず「人間」そのものをしっかり描いた、
「いつ見ても、いいものはいい」と言える王道作品の誕生だった。
<具体的に良点指摘>
・掴みが速い
マーヴェリックのキャラクターを、冒頭の「ダークスター試験」のエキサイティングな内容で一気に描く親切設計。最初から楽しませようという気概にあふれている。
・作中目標のわかりやすさ
「マッハ10に到達しないと予算剥奪だ」
「3分以内にすべてを完了するための訓練だ」
「敵の第五世代戦闘機は、こちらのF-18を上回る」
「高度5000フィート以下は墜落の危険性がある」
「滑走路が穴だらけで誘導路しかない。それもあまりにも短い」
などなど、「何が困難か」を具体的に提示して、それに対する対応や結果で観客の感情をリードし続けてくれる。
隣に座っていた上映前は興味がなかった風の女性客も、「タイマーセット、2分15秒」の所では「やば……(笑)」とつぶやいており、のめり込んで見ていたように感じた。この手のミリタリ色の強い娯楽映画で、彼氏の付き合いで来た女性客まで「人間の命を賭けた挑戦の物語」として楽しませきったのはすごい。
・主人公もヒロインも50代
これが一番やられたと感じたところ。
一作目の30年以上経過後の続編となれば、「新しい若い主人公(とのその彼女)」「サポートする、賢者的な前作主人公」「受け継がれるなんちゃら、新世代主人公誕生」という脚本に、作品的にも商品的にも興行的にもなりがち。
ところが、かつての相棒グースの息子は濃厚な配役的に出てくるものの、本作のスポットライトはずっとマーヴェリックに当たっており、再会し脛も傷だらけになった者同士のしっとりした恋愛に発展する相手役も同年代。「若いヒロインを用意して年齢を超えた恋愛」とか「アラフィフという設定なのに異常に若作り」とかではなく、また「枯れた者同士の恋愛」でもなく、アラフィフ~50代だが一個人としてたくましく生きている者同士の心の交流→恋愛がしっかり描かれているのである。
また、それもあくまで物語に深みを持たせる一側面という控え目な塩梅で描かれており、胸焼けするようなことや、「海軍パイロットが戦闘機で飛び回る映画」という軸がおざなりにされていることはない。
・プロフェッショナルの描き方
脚本に捻りがないのなら、シーンを魅力的に成立させるのは画と言動の迫真性である。
例えば、後半のF-14で「ハンドサインで味方のふりをする」シーン。
マーヴェリックはここ一番での機転と度胸を発揮するが、敵も気づいていないふりをしてすぐに気づき、さりげなく攻撃態勢へと移る。それで、マーヴェリックも気づかれたことに気づく。戦うか脱出装置を使って降伏するか一瞬の迷い、そしてルースターの声で「戦う」と決めれば、その瞬間に回避行動+奇襲攻撃で相手の1機に大ダメージを与えながら、決死の戦闘開始となる。
マーヴェリックと敵2機は一切の会話が無いにもかかわらず、お互いがプロらしい非情な最善手を尽くし合う緊張感のある駆け引きと、静と動が瞬時に入れ替わるダイナミックな行動のシークエンスが成立している。
敵を攻撃する前に長々と前口上を垂れるようなよくある脚本とは、「プロの戦闘者のかっこよさ」に対する造詣がちがうと感じた。これぞリアリティという品質。
・控え目なファンサービス
前作のキャラクターも、わずかだが出てくる。その関係性も本作で自然とわかるようになっており、「シリーズを知らないと意味が分からないシーン」というものが無い。そして当然だが「シリーズキャラクターを並べること自体が目的となるような本末転倒」にも陥っていない。すべてのリブートもので徹底されてほしい塩梅である。
・妙にいぶし銀な描写
ここからはかなり好みの話。
「海軍のこの40年で、3機を撃墜した伝説のパイロット」という、飾らない設定。
空軍ではなく海軍の飛行機乗りたちの話で、つまり空母艦載機=爆撃任務が主らしい(作中でそういうセリフがある)ので、フィクションではそうなりがちな何十機~何百機も落としている撃墜王がいる世界観ではない。だが本作を観れば、それがいかにすごいことか納得できる内容となっている。
「自分たちよりも、敵国の戦闘機の方が性能が高い」という、米国娯楽映画らしくない設定。
マーヴェリックたちが使用するF-18ホーネットは15年前のゲームですでに最新鋭の扱いではなかったし、F-14トムキャットなどエリア88の時代の戦闘機だ。つまり「ベテランパイロットが、旧型機で敵の最新鋭機に挑む」という、本邦が世紀をまたいで失った浪漫をやってくれている。
・管理職の苦悩
飛びたがり屋の最強パイロットが、いきなり教官をさせられる話。
名誉だ、君が必要だと言われても、うまくできるわけがないのだ。
現場のベテランエースが管理職や経営陣に引き上げられて「うまくできない」苦悩は、世界共通か。ほとんどの、現場で功を成した人こそドロドロに感情移入する内容のような気がする。
ただ、自分はまだ現場仕事の人間だが、それでも非情に楽しめた内容であったことは記す。
5月は実写映画を日・洋で一つずつ観たが、
どちらも「話題の娯楽作×ヒューマンドラマ」の文脈だったので、
その制作における姿勢と完成度に、正直「差があってしまった」と感じている。
本作は、文句なしにおすすめできる。