「数年に1本あるかないかの完璧な娯楽映画」トップガン マーヴェリック しろくまさんの映画レビュー(感想・評価)
数年に1本あるかないかの完璧な娯楽映画
完璧な娯楽映画というのは、そうそうないものだ。
大金をつぎ込み、多くの手間と時間をかけながら、大衆を真に楽しませる映画を作ることは、意外に難しい。自分の感覚では数年に1本あるかないか。
そして、本作は、まさにそれに該当する。
あなたが、もしも映画好きなら、悪いことは言わない、出来るだけ大きなスクリーンで見るべき作品。観て損は絶対にない。
大風呂敷を拡げても夜郎自大にならず、納得の大団円で終わらせる。
脚本上の唯一の欠点を挙げれば、作戦のメンバー選出に至るプロセスが、やや説明不足か。
だが、その後の怒涛の展開は、スリル、アクション、スピード、すべての面で圧倒的。そして迎えるは、もちろんハッピーエンド。前作で死なせた相棒グースの息子ルースターとの確執をも乗り換えたカタルシスは、少しのキズも忘れさせてしまう。
本作は歳を重ねたヒーローの描き方としても興味深い。
トム・クルーズ演じる主人公マーヴェリックは、かつてのライバル、アイスマン(ヴァル・キルマー)のように出世し、一線から離れてもおかしくはない年齢である。
だが、本作のマーヴェリックは、老害でもなく、安易な“おっさんバンザイ”でもなく、必然性と説得力のあるヒーローとして描かれている。
ヒロインもしかり。
主人公はおっさんだが、不自然に若い女性にモテる(例えば昔の007のように)というのは、MeToo以降のハリウッドの視点で見れば、男の期待(つまりスケベ心)への“過剰適応”だという批判があり得る。
その点、本作の相手役のペニー(ジェニファー・コネリー)についてもまた、年齢を重ねたことが(おそらくあったであろうシングルマザーとしての苦労も含めて)、その人の魅力として描かれているのも素晴らしい。
なお、本作の裏テーマはシンギュラリティ問題(AIが発達すれば人間の仕事がなくなる、という問題)だろう。
マーヴェリックに対して、「人間のパイロットは、いずれ不要になる」というセリフが突きつけられる場面がある。
そして、この問題は現代の映画作りにも投射される。
本作の圧巻のスカイアクションはスゴ腕のパイロットたちを集め、全編CGナシ、合成ナシで撮影された。
トム・クルーズを始めこの映画の製作者たちは、コンピュータの作り出す映像ではなく、ホンモノの持つ迫力にこだわったのだ。これは現代の映画作りに対する問題提起だとも受け取れる。
人は歳を重ねると失うものも増える。親友グース、ライバルのアイスマン、かつて別れた恋人ペニー…
だが、マーヴェリックにとって絶対に失いたくないものがある。それは空を飛ぶことだ。
クライマックスで彼が挑む作戦は、国家の利益や、世界の平和秩序のため生まれたものだろう。
だが、彼は、そうした大義のために挑むのではない。彼自身が失いたくないもののため、つまり極めて個人的な想いを賭けて作戦に挑むのだ。
だから、本作を観る者はアメリカという国家の成功に感情移入するのではない。トム・クルーズ演じるマーヴェリックという人と同化して、スリルを味わい、ハラハラし感動する。
ここまで持ってくる脚本と演出、役者の演技、そしてスカイアクションの合わせ技の、圧倒的な説得力に唸る。
そう、マーヴェリックは決して最新鋭の戦闘機に乗って敵機を撃墜したいわけじゃない。
だから本作は、空母の甲板で作戦成功とマーヴェリックたちの帰還に沸くシーンでは終わらない。
ラストに、この物語のハッピーエンドとして描かれるシーンは、時代遅れのプロペラ機にペニーと乗る姿なのである。
そしてこれは、俳優トム・クルーズからの、(人間のパイロットが空を飛ぶように)「スクリーンの中では生身の役者が演じることを大切にしたい」という、この映画作りを通じたメッセージともつながるはずだ。
終盤にF14まで登場、相棒はグースの息子というサービスぶりにお腹いっぱい。
エンドロールが終わったら映画館に拍手が沸いたのも納得。
ちなみに字幕は久しぶりに見た戸田奈津子。