「間延びした前半から圧巻のラスト」劇場 rainさんの映画レビュー(感想・評価)
間延びした前半から圧巻のラスト
正直そんなに期待してなかったんですけど、素晴らしかったです。
前半、しつこいまでに永田と沙希のズレた恋人生活を見せられ、見ているこっちが永田に腹が立ち、もうやめてやろうかと思いましたが、諦めなくてよかったです。というのも、前半の抑揚のない「しつこさ」が、ラストをより輝かしいものにしているからです。
人間って、誰しも利己的で、自分が一番かわいいし、自分のために人を利用しようと考える人(言い方は悪いが)も割といると思うんですよね。永田なんてその典型で、そんな彼の傲慢さ、身勝手さが、嫌というほど描かれます。対して沙希は、そんな永田を無償で愛する、天使のような人物です。しかし個人的には、(もちろん沙希が優しい人間なのは否定しませんが)彼女もまた、独りよがりで独善的な人間なのだと思います。というのも、別に永田と付き合えなんて、誰も頼んでいないんですよ。それなのに自ら都合のいい女になり、少しずつ壊れていく様を見ていくのは、なんだか痛々しかったですが、いわゆるアレじゃないでしょうか?「悲劇のヒロイン」。だってね、普通の人間なら、永田が沙希のお母さん嫌い発言したときから、うわ、こいつやべえと思って別れるでしょう。沙希もなんとなく、このままではまずいということを理解していたはずです。でも結局ズルズル続いてしまった。利用されていると分かっていながらどうすることもできなかった、彼女の弱さ、甘さがこれでもかというくらい伝わってきます。
そして素晴らしいのは、夜、桜並木を二人乗りで走るシーン。自転車に乗る前からわかりきっていたことですが、正直、彼らはもう修復不可能なところまで来ていました。わかってはいますが、永田はどこまでいっても独善的であるため、沙希の心をなんとか取り戻そうと、彼女にたくさんの話をします。それまで全く反応を示さなかった彼女が、永田が沙希を天使だと思った、という話を聞いた途端、涙を流すシーンがありましたよね。もう、私もガン泣きです…。きっと沙希はこうやって褒めて欲しかったんだろうと、いつかの彼女の言葉が思い出されて…。
もっと早く永田が変わっていれば、2人はまだ一緒にいれたかもしれません。しかし、誰の目から見ても、もうどうにもならなかった。ただネタバレをするだけならば、どこにでもあるヒモ男と世話焼き女の悲恋物語であり、それほど陳腐なものは他にあるかというくらいありきたりですが、ありきたりだからこそ、私たちによりリアルに迫り、物語が光るんですよね。時間は巻き戻せないし、私たち自身も変わってしまうけど、むしろそれこそ正しい「人生」なのだと感じました。
ちなみに、松岡茉優ちゃんの演技が素晴らしかったのは言わずもがな、山崎賢人くんも結構よかったですね。自分はヒロイン失格という映画で山崎賢人を見たとき、この人はこの演技力では間違いなく生き残れないだろうと思ったのですが、多少の棒読み感は否めないものの、今回はしっかり役者でした。