「やるせなくも愛おしい」劇場 K命さんの映画レビュー(感想・評価)
やるせなくも愛おしい
原作未読ゆえに、公開前は松岡茉優さんと山崎賢人さんのW主人公のように描かれる映画だと想像していました。
しかし、この映画の主人公は紛れもなく山崎賢人さん演じる永田でした。
『ダメ男』『クズ男』と容易く言うことができる永田。だけど自意識と他者からの評価の差、それにより掻き立てれられる不安。不安を振り払おうとして強い言葉、強い態度を他人にぶつけてしまう。ただ根本の部分で他者を恐れているから、気を許した人にしかそんなことはできない。だから最も気を許した人にぶつけてしまう、そして最も大切にしなくてはいけない人を傷つけてしまう。
ダメというのはその通りでしょう、ただ誰もが心のうちに抱えている弱さを、永田を通して山崎賢人さんは非常に繊細に、ただ確かに表現されていました。
もちろん松岡茉優さんも素晴らしかったです。
公開前何かの番組で松岡茉優さんが仰っていた、永田と沙希のパワーバランスが変わるシーン。永田を気遣い続けた鬱憤が爆発するシーンがあるのですが、ここの鬼気迫る演技が本当に素晴らしい。
言葉の間、語気の緩急、表現のどこを切り取っても彼女の演技力の高さを裏付けとして十分なものだと思います。
永田と沙希、2人には絆がありました。足りない部分を補い、2人の夢は互いに混じり合っていました。だけど恐らく、どう考えても、一緒に歩み続けることはできなかったと思います。
変わらない永田、変わらない永田を好きな沙希。しかし同年代の普通の友達と自分を比較し、感じ方が変わっていていく沙希、そんな考えをする自分を嫌いな沙希。人の思いの変化は誰にも止められない、自分でも。通じ合っていても、互いに支え合えない。
けれど最後の場面、猿のお面をつけておどけみせる永田を見て沙希は笑いました。
出会いまもなく、じゃれ合っている頃の2人のような笑顔で。
そこで映画は終わりました。
暗転してスタッフロールが流れました。
永田が一番幸せを感じる沙希の笑顔で映画は終わったのです。
色んな感情が巻き起こる、非常に良い映画でした。