劇場公開日 2020年7月17日

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「人様が他人に「報われてほしい」と思うこと自体野暮」劇場 わたろーさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0人様が他人に「報われてほしい」と思うこと自体野暮

2020年7月19日
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 コロナウイルスの流行禍に巻き込まれた結果、映画館の公開に合わせてアマプラでのネット配信も同時に行われている本作。奇しくも小劇場の現在の経営の苦しさ等も報道されるようになってきており、考えなくてもいいことまで(作り手が意図していないであろうところまで)考えさせられる作品だった。

 まず、この映画の作風なんだけど、個人的に嫌いな部類に入るはずの作品だった。まず、主人公の一人語りが往々にして続く点。「そこは見る側に解釈を委ねたらいいのに」「演者の演技や演出に頼ったらいいのに」ということまで語りすぎている。次に、主人公が無条件に甘やかされ、成長しようとしない点。この男に全て共感できるという人はいないであろうクズぶりである。最後に、女性のキャラクターが一辺倒に男性を支える側に回っている点。フェミニストではないけれど、古風な設定には辟易するタイプ。

 でも、この作品はどこか愛らしく感じてしまう。「愛がなんだ」の男性&女性主人公バージョンと言ってもいいかもしれないし、身体的距離だけは繋がっている新海誠作品といってもいいかもしれない。

 「俺は人の意見を聞きたくなさすぎ病なんだと思う」と自分のことを評してしまうくらい、自分のことが大好きで才能があると信じ切っている、山﨑賢人演じる永田。ディズニーランドに行きたいとねだる彼女に「他人の創作物に興味を持ってほしくない」と拒否するシーンや、「人見知りだから」と彼女の知り合いにあると遠ざかってしまうシーンが印象的。要は自分しか見えてない。彼女を失ってしまうと、自分の存在意義をすべて失ってしまうと思い、大切にしなきゃと思いつつも、ひたすら甘やかされる。そんなどうしようもない役柄をチャーミングに演じていた。

 そして何と言っても彼女である松岡茉優演じる沙希。とにかく松岡茉優の怪演が最高だった。声色、視線、表情、歩幅、何から何まで緻密に計算尽くされている(でもあざとく見えない)演技に惚れ惚れする。なにがしかの賞が貰えるのではないでしょうか。

 全体を通してみると、物語の前半では沙希の感情が全く描かれない。無条件に尽くし続け、無条件に彼の存在を肯定し続けている。そして、中盤以降決壊したかのように彼女の葛藤があふれ出したときに、見る側は彼女に「報われてほしいな」「幸せになってほしいな」という感情を抱く。でも、最終的に「報われてほしいって願うことがバカバカしいこと」に思えてくる。彼女にとっての幸せの基準を、他人である見る側が勝手に決めつけることが一番滑稽でしょうもないと思わせてくれる着地の仕方をしてくれるからだ。良い余韻が残りました。

 二人の出会い方が不満(靴が何かのメタファーになってたのだったら別だけど、二人人生の立ち位置も同じではないように見えたので)だったのと、前述した点で手放しに絶賛できるわけではないけれど、今年見た中でかなり大好きな作品になりました。自分自身が変わりたいと思うとき、自分自身が変わらなくていいやと思うときに、何度も見返したくなる一本です。

わたろー