「ワニとスポ根」クロール 凶暴領域 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)
ワニとスポ根
Burning Bright(2010)という映画があって暴風雨のさなかトラと家に閉じ込められる姉弟を描いていた。海外の批評でそれが引き合いにされていたのは“特殊状況へおちいらせる”ことの相似だった。Crawlも主人公をわざわざワニに襲われる状況へもっていく筋立てに感心させられる。
というわけでワニに襲われるパニック映画だが、父は競泳の鬼コーチであり選手である娘をスパルタンに育成してきた──というスポ根な父娘関係が下地になっている。
たとえワニに襲われるパニック映画といえども映画にはディティールが必要だ──ということがわかる映画だった。
ヒロインだから当然といえば当然だが他の人たちはみんなワニにやられるのにヘイリー(スコデラリオ)だけは強運と強靱さでことごとく窮地を脱する。
ちょいちょい噛まれるのもなぜかへいちゃらでヒロインと他出演者との選民格差はけっこうすがすがしかった。
一流のスポーツ選手はじぶんは何者なのか──ということを探求するものだが、バリーペッパー演じる厳格な父も「おまえは何者だ、ワニよりも速いはずだ」と言ってヘイリーを鼓舞する。
ヘイリーもワニの群れを猛スピードの泳ぎで躱すとApex Predator All day!と叫んだりして状況のわりにはノリノリだった。
つまりCrawlのスポ根な父娘関係は「もし後ろからワニが追ってくるという状況ならば、あるいはワニが追ってくる気で泳ぐならば世界一のスピードで泳げる」という意気込みを提供している。
ようするに生き延びることも試合で1等賞に輝くのも気合いなのだ。──というポジションで、ワニパニックと父娘ドラマに主従がなく対等値になっていることで骨格を感じるパニック映画になった。
スコデラリオが躍動的なうえキッといい顔をするし、ワニもアジャの過去作High Tensionみたいにしつこくて楽しめる。が、ラストがよくなかった。
ワニから逃れ暴風雨を生き延び、父娘もお互いの気持ちを確かめ合ったわけだから、競泳大会で勝って父娘が歓喜している──という場面がラストにあってしかるべきだった。
Imdb6.1、RottenTomatoes84%と75%。
傷が回復し平生に戻った父娘の画が最後にあればImdbも0.5ポイントは伸びたのではないか。尻切れとんぼなのがとても惜しかった。