「長女が歌うマイケル・ジャクソンの『They Don't Care About Us』に監督の意図が重なる」ミッドナイト・トラベラー 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
長女が歌うマイケル・ジャクソンの『They Don't Care About Us』に監督の意図が重なる
本作については当サイトの新作評論に寄稿したので、ここでは補足的な観点で書いてみたい。
まず、この「ミッドナイト・トラベラー」が3台のスマホで撮影されたことが強調されているけれど、映像記録デバイスとしてだけでなく、支援者との連絡、情報収集、それに子供たちのエンタメ(遊びや気晴らし)の道具としてスマホが大いに役立っていることも見逃せない。映像は最終的に300時間にも及んだそうだが、ハッサン・ファジリ監督はSDカードに記録した映像データを各国の協力者を介して米国のプロデューサーに送り、データ到着を確認した後にカードのメモリを消去してまた撮影していったという。ブロードバンド回線など望むべくもない過酷な旅でも、スマホとモバイル回線が使えて支援者がいればこんな映像製作が成立するという好例だろう。
長女ナルギスが難民キャンプ内の狭い部屋で、スマホで再生するマイケル・ジャクソンの『Black Or White』と『They Don't Care About Us』のPVに合わせて歌い踊るシーンがある。どちらも差別される側、存在を無視される側からの視点で訴える歌だが、監督はこの2曲の場面を入れることで、イスラム教徒の側面もあるアフガニスタン難民が移動先の外国で受ける扱いを重ねたのだろう。
「奴らは俺たちのことなんか気にしない」とマイケルは歌う。国際社会は、そして私たち一人ひとりは、難民のことを気にかけているだろうか。そんな問いかけが込められているように思う。
コメントする