「倫理上撮り得ない映像」ミッドナイト・トラベラー 花火さんの映画レビュー(感想・評価)
倫理上撮り得ない映像
アバンタイトルとして、ソニーの古い家庭用カメラで撮ったとおぼしき家族のプライベートフィルムが挿入される。以降はそうした安らぎとは無縁の映像が続き、冒頭のあれは宙吊りにされ何だったのかと思うのだが、比較的安全なセルビアの難民キャンプでのクリスマスに撮られた家族の雪合戦や花火の場面で、ここと対応していたのかと幾ばくかの感慨を呼び起こす。
とはいえこの映画で一番重要なのは、スマートフォンによってあらゆる状況で映像を撮られるように見える現在にあっても、撮られない/撮り得ない映像もまた存在するのだということだと思う。セルビアで一家を襲う難民排斥派による暴力、娘が行方不明になった際に父親=監督の聞こえたカメラを回せという悪魔の囁き、それらを告げるナレーションは、ひょっとすると流転の家族の悲劇以上に、安全地帯で映画を観る観客を突き刺すのかもしれない。
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