「濃厚ホラーオムニバス」マスターズ・オブ・ホラー KinAさんの映画レビュー(感想・評価)
濃厚ホラーオムニバス
5編のオムニバス。
ホラー映画の主人公となる人たちがレトロな劇場でそれぞれ自分の恐怖の物語を観せられる、のを、私が劇場で観る。
『The Thing in the Woods』
『森の中の物体X』
王道殺人鬼モノのスラッシャー映画の3分の2くらい進んだ辺りのクライマックスからいきなりスタート。
また個性的なビジュアルの溶接男のまさかの中身、からのジャンルスイッチがお見事だった。
情報の少ないままそれぞれの人間関係やその背景を探りつつ、強制的にスリルを感じていたところで一旦遡ること数時間、なるほどタイトル回収。
お口からinは勘弁。
致し方ない哀しき選択に期待を裏切らないラスト。いい表情してた。
人体破壊の描写や体内から燃え上がる炎の熱さを感じる見せ方がとても楽しかった。
めげずに包丁持ってGO!とばかりに、刺されるの分かってるのに繰り返す手探りにキュン、磔にキュン。私情ダダ漏れ。
主人公のスタイルが最高だった。
『Mirari』
心理的負担の大きいサイコスリラー。
美の基準は人それぞれ。たぶんそういう性癖だったのかな。
僕は気にしないって、むしろそれがあるから選んだのでは?納得の恋人チョイスだと思う。
強すぎるほどのコンプレックスさえ無ければ、なんて思ったところで無理な話、後の祭り。
大改造の成れの果てに戦慄。
そもそも一段階目で何かおかしかったし。
病院の院内など明るいトーンの映像が綺麗で、改造後のビジュアルとのギャップが良かった。
オムニバスのストーリーテラー的な立ち位置のミッキー・ロークをこの話の直後に出すのは皮肉としか思えない。
『Mashit』
悪魔祓い×スプラッタアクション。わりとカオス。
神父様とシスターの情欲が生んだ悲劇。
聖なる学び舎での禁忌はなかなかドキドキするのでもっと描写して欲しかった。
罪の無い子供を使ってめちゃくちゃ襲ってくる狡猾なやつ。
身体から身体へ転々とする悪魔への正しい対応のは何なのか…うるせえ!殺せ殺せ殺せ!神父無双!
女子供容赦なくスッパンスッパンなぎ倒す、およそ神父様とは思えないその所業。
ジャカジャーンデンデケデンデケという軽めの音楽も相まって笑ってしまった。どうしてそうなった!?と言いたくなる。
最後の姿がかっこいい。
王道など絶対に行ってやるものかという気合いを感じる。エンドロールで監督の名前を観て納得。私は好き。
『This Way To Egress』
洗脳的なモノクロの悪夢。
5編の中で一番ワケが分からなくて、でも一番ゾワゾワする嫌な物語だった。大好き。
狂ってしまった人間が迷い込む世界。
おびただしい汚れの色は赤か茶色か、モノクロだとどちらにも取れ、より汚い印象になって生理的な嫌悪感が半端じゃない。
理不尽な扱いへの怒りと気持ち悪さで頭がいっぱいになって、心身共にグサグサやられる。
主人公が選ぶ出口に気が沈む。あの時衝動に従っていたらどうなっていたんだろう。
結局何だったのか色々気になるけど、このくらいの尺でちょうどいい。
2時間この感じで続かれたらこっちの頭がおかしくなるわ。
鑑賞日の夜、夢に汚いトイレが出てきた。
『Dead』
俺を見るな!
唐突で理由無き襲来のスリル。
序盤はシチュエーション的に現実味があって、こんな不意打ち絶対受けたくないものだと心から思った。
無残な結果、生死を彷徨ったことで身についてしまった、視える能力。
この状態で病院にいるのキツいな…。
ママの甘い言葉に身を委ねたくなるけど、ケイシーの存在が命綱に。力強い言葉をありがとう。
執念の襲来に追いかけっこと隠れんぼが本当にドキドキして堪らなかった。
死んでも終わりとは限らない。
逃げても結局はホラーの主人公であることからは逃げられない。
5編とも普通の映画の流れに収まらず、一癖も二癖も付けてくれるので見応えがあって面白かった。
クライマックスからのクライマックスにどんでん返し、多重になったストーリー要素など非常に濃厚。
鑑賞後は疲労困憊。とても楽しかった。