「コンセプトに賛辞を贈ることができない」ミッドサマー ニッケル木犀さんの映画レビュー(感想・評価)
コンセプトに賛辞を贈ることができない
結論から言うと面白いと呼べる映画ではなかった。
正直に言えば、あまりにコンセプト・技法ともに全く評価できない。これに絶賛の声を送る方とは、私は価値観を共有できないのだろうな、と考えでしまうほど私はつまらないと感じた。
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本作はアリ・アスター監督によって作成されたホラー映画。
主人公は精神疾患を抱えた大学生のダニー。家族の死をきっかけに精神状態を悪化させてしまうが、そのような状態の彼女を彼氏のクリスチャンは疎ましく思っている。クリスチャンは大学の同期たちとともにスウェーデンの夏至祭に招かれており、そこにいこうと計画しているが、それにダニーも同行することになる。
夏至祭は牧歌的で美しい小さな集落で行われていた。ホルガと呼ばれる集落は緯度の高い位置にあり、夏至は白夜になっている。一日中太陽がカンカン照りで、そこに暮らす村人も歌を歌って、皆が互いを「家族」と呼んで仲良く暮らしている様子である。
夏至祭は全部で9日ある。詳細は割愛するが、ホルガでは老人は72歳まで生きたら自死をする習慣があった。夏至祭序盤で二人の老人が高台から飛び降りて自死をするシーンが非常にゴアな表現で描かれている。そこから楽園に見えたホルガは歪で不気味なものへ変容していく。
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「精神衛生に大変悪い」「心がえぐられた」「気持ち悪いのに好きになった」等、レビューがSNSに多数投稿されていたため、気になって劇場で視聴しました。
良い点が1つと、つまらないと感じた点が3つあります。
良い点は非常に美しい映像づくりが意識されていることです。ホルガの暮らしは基本的に明るい色調で色とりどりの花々が美しく飾り付けられています。その暮らしぶりはまさに夢のようで、少なからずあこがれを抱くような世界観でした。
しかし良いと思ったところはここまで。
私がつまらないと感じた点について。
①カット割り、ストーリー展開そのものが冗長。音声効果も古典的で退屈。
特に前半はそうなのだが、見どころが少なく見ていて退屈でした。加えて作品中で一貫して、思わせぶりなシーンの伏線が回収されず、「あそこのシーン何の意味があったんだ」と思うことが多かったです。劇中で学生が殺害される場面で、殺人者の顔が数秒映し出されるシーンがあったのですが、特にその後の展開に全く影響もなく、苛立ちを感じました。弦楽器の重低音や歌声の不協和音でホラー感を演出する手法は非常に古典的で、正直言って手垢のついたやり方に思います。
この内容の映画なら90分で十分かと思いました。
②ゴア表現や不快感を煽ることで話題性を作り出そうとしている印象を受けた。
美しくて明るいビジュアルと対照的に宗教的で不快なストーリーやゴア表現を用いることでホラー要素を浮き彫りにするのはシンプルに面白い試みかと思いましたが、一方で、死体の損壊や臨死時の喘鳴が劇中で登場するし、宗教的儀式として性的描写も長々と登場します。これらの描写で、どんな効果を劇中に求めているのかが不明でした。観客に恐怖体験ではなく、単なる不快感を与えることが目的であるとしか思えず、そのような目的をもって映像作品を制作すること自体に苛立ちを覚えました。
③製作者の文化に対する理解
前述の自死シーンを目にして、クリスチャンは「(自分たちの常識とは大きく異なるけど)彼らの文化に偏見を持ちたくない」と言って、冷静にホルガの文化に対峙しようとします。この態度には私自身も共感します。しかし、劇終盤ではこの文化の狂気性が際立ち、映画全体として、非科学的で宗教的な文化を極めて否定的に感じられる形で描いています。このようなテーマに安易に踏み込み、不快な対象として客集めに使うこと自体がタブー視されるべきものであるように感じられてなりません。
アリアスター監督は本作を『恋愛映画』と呼んでいます。生死さえ関わり、あまつさえパートナーを殺めるような、狂気的な感性が恋愛の本質なのだと監督は考えているのかもしれません。
そのメッセージ性に私は共感できず、映画全体の技術面を含めて面白いと感じる要素に欠いている作品だと思いました。