「まるでサウナ」ミッドサマー サブレさんの映画レビュー(感想・評価)
まるでサウナ
公開前の評判がすさまじかったこの映画。ふたを開けてみれば、期待以上にえぐかったとか、期待しすぎて拍子抜けだったとか、いろいろな感想がネットを駆け巡っていた。
私には正直、映画のほとんどが退屈でつらいもののように感じられた。それはまさに「サウナで整うってことを教えてやるよ」と先輩に言われて嫌々交互浴に付き合う後輩社員の気持であった。しかし、私はミッドサマーでしっかりと「整う」ことができた。
まず、ホルガに行くまでが長い。カメラワークも独特で、これから観客を不安な気持ちにさせてやるぞ、という製作者の気持ちが見えるようであった。その状態でおそらく30分…しかもカメラワークだけでなく、内容も面倒くさいダニーとうじうじしているクリスチャンのグダグダ喧嘩がほとんどで、スウェーデンの明るい青空と緑が現れた時にはホッとした。
そしてそこからがまた長い。前振りとして人物紹介をし、コミューンの明るさの中にある不気味さを醸し出していく。特に儀式で命を落とす2人を待っての食事シーンにはイライラした。マークの気持ちもわかるというものだ。
そしてやっと最初のグロシーン。老人2人が崖から飛び降りて顔面や脚をぐちゃぐちゃに破壊する。あとから飛び降りた死に損ないの顔を若者たちがハンマーで砕くシーンは中々。だが、それほどグロくはない。アイアムアヒーローやロボコップが平気なら大丈夫なレベル。
ここまででたぶん、90分くらい。つまり、最初の山場までですでに上映時間の半分以上を使っている。正直、しんどい。しかもここからめくるめく邪悪な儀式に邁進するでもなく、じっとりとした不穏な空気をじわじわと醸し出していくのみ。
しかし、今思い起こすと、不穏な空気の作り方が非常に優れていた。誰かと誰かが険悪な雰囲気になるだけではなく、画に映る全員が各々の目的を基に、一丸となって、”観客に”ストレスを与えるために行動していたのではないかと思わせるほどに、事情が複雑であり、それでいて理解の及ぶものでもあった。大変すばらしい。
ただ、”お客さま”たちをグロテスクな方法で殺害したのは、正直意味が分からなかった。禁忌を犯したマークやジョシュはわからないでもないが、サイモンとコニーは何かしたのか?お客様たちは儀式的な方法で殺さなければならないが、コミューンのメンバーは自分らの自由に死なせていいってのはムシが良すぎないか?
と、コミューンの面々が何を考えているのか全くわからずに、ダニーとクリスチャンの仲もまったくよくならなかったので、いったいこれでどんな着地をするつもりなのだろうとずっと不安だった。クリスチャンが生贄として炎の中で死にゆくときも、考えていたのは「おいおい、あと数分しかないぞ!これで本当に終われるのか!?」だった。
だからこそ、最後のダニーの微笑みで衝撃を受けた。これはコミューンに囚われた哀れな観光客の話でも破局寸前のカップルに起こった悲劇でもない。ダニーの心が救われて”家族”を得る話なのだと。
そこに気が付いた瞬間、私は整ったのでした。
…この整いを大事にしたまま終わればよかったのだが、公式HPで観た人用の解説ページを読んでしまったので、ちょっともやった。簡潔にまとめると、「アリ・アスター監督はこんなにディティールに凝っているよ」という話が延々と続いているのだけど、正直どうでもいい。
もう一度観れば新しい発見もあるだろうが、それはダニーとシンクロして得られる「整い」を上回るものなのか?ダニーはコミューンで共感してもらうことで救われた。ならば我々もダニーに共感して整うことを重要視するべきなのでは?
ルーン文字の意味や儀式的な殺害方法の意図、「隠された顔」など、分解すれば面白いものがたくさん出てくる映画だとは思う。しかし、観るときは無心になって、ぜひ「整う」ことを優先してもらいたい。