劇場公開日 2020年8月28日

  • 予告編を見る

「映画としては高評価の難しい作品」ソワレ 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

2.0映画としては高評価の難しい作品

2020年9月2日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

 村上虹郎という俳優のよさが未だによくわからない。顔がキリッとしすぎているせいなのか、表情があまり読み取れないのだ。ヒロイン山下タカラを芋生悠が表情豊かに演じていただけに、なんとも落差のある印象である。ただ、道を疾走する場面だけは若いエネルギーが弾けている感じで凄くよかった。

 論理的にものを考える習慣がないと、咄嗟の場合に変な行動に出てしまうことがある。村上虹郎の翔太がその典型で、何かに驚いて道路に飛び出して自動車に轢かれる猫みたいだ。その癖ときどき説教がましいことを言う。暴走族上がりの警官と同じである。

 物語はよくある設定で不幸な少女時代を過ごした女性とロクデナシの男が出会うのだが、逃避行のエピソードが底が浅い上に互いの会話が少ないから、二人の関係性の変化がわからない。終盤になってタカラは心境の変化を自覚したが、翔太は結局少しも成長していないことがわかる。

 最後になって翔太があることに気付く場面も、伏線の置き方に印象がないから殆ど響いて来ない。それよりも翔太が過去の悪事から逃げ切ってしまった終わり方に納得がいかない。山下タカラが学校の黒板に書いた、おそらく彼女の本名と思われる「大久保タカラ」についても回収され仕舞いである。登場する刑事が「幼稚な鬼ごっこ」という意味の台詞を言うが、まさにこの言葉が本作品を言い得ている気がする。フランス語の「ソワレ」は「夜会」の意味であって「夜の学芸会」の意味ではない。

 親による子供の人権蹂躙はまだまだ解決を見ていない。それどころか解決に向かおうとする社会の意思さえ感じられない。親が子供を支配しようとするのは、未だに続く封建主義の精神性に基づく根深い問題だ。そこに光を当てようとした志は評価するが、映画としては高評価の難しい作品であった。

耶馬英彦