「素晴らしい歌とダンス、それは人生そのもの」キャッツ ボーマン船長Ⅲさんの映画レビュー(感想・評価)
素晴らしい歌とダンス、それは人生そのもの
白くて小さな捨て猫のヴィクトーリアは、自分の境遇を悲しんではいない。彼女には振り返ることのできる過去もなければ、現在の居場所もない。しかし、ゴミ捨て場で他の猫たちとダンスをするうちに徐々に受け入れられてゆく。彼女のダンスは美しいが、とても悲しく、はかない。
猫たちの一夜限りの歌とダンスの饗宴。
猫たちの一匹、一匹に人生があり、歌を歌うこと、ダンスをすることは自らの人生を語ることだ。
この、歌とダンスが素晴らしい。最初のあたりはVFXらしき映像処理が感じられたがすぐに気にならかくなった。猫たちのステップの音や呼吸音がまるで舞台の最前列で観劇しているような錯覚を覚えた。
ボンバルリーナ(テイラー・スイフト)の歌う、マキャヴィティのテーマは、彼女の魅力全開だ。雌ヒョウのような(雌猫ですが)コスプレ、抜群のボディアピアランス、まるでハリウッドのショーを見ているようで、どの猫もマタタビでメロメロになってしまう。これだけでも観る価値がある。
鉄道猫のスキンブルシャンクス(スティーブン・マックレー)のダンスも素晴らしい。ロンドンのロイヤルバレエ団の主演ダンサー。しなやかに鍛え上げられた身体から繰り出されるタップも超一流だ。
そして、何と言っても一番は、グリザベラ(ジェニファー・ハドソン)の歌う、「メモリー」だ。圧倒的な歌唱力、表現力に、2回観て、2回とも泣いてしまった。泣きじゃくりながら、鼻水まで垂れながら振り返る彼女の人生は、歌の初めは後ろ向きで、暗い。今の自分の境遇をみじめに思っている。しかし、捨て猫のヴィクトーリアに導かれ、触れられて、グリザベラは前を向き、暗い夜明けにさすであろう、夜明けの光を待ち望む。美しいメロディは彼女の圧巻の人生そのものだ。
グリザベラは選ばれ、猫たちは歓喜の歌を歌い、踊る。
ここでのヴィクトーリアのダンスの、何と美しく、喜びに満ち溢れていることか。この映画は捨て猫だったヴィクトーリアの、力強い、成長の物語でもある。