「舞台版前提で見るなら十分楽しめる」キャッツ しずるさんの映画レビュー(感想・評価)
舞台版前提で見るなら十分楽しめる
ミュージカルが好きで、一時期は幾つか舞台を見に行ったり、CDを買い漁ったりしていた。
初めて予告編を見た時、えっ、何故最も映画に向かなそうなこの作品を映画化した!?と困惑した。
色々な猫の性格や行動を人間になぞらえた詩が原作で、特に猫好きには理解も深く微笑ましいが、やや象徴的哲学的内容である事。猫達の群舞や、各猫の特徴あるソロの歌やダンスを堪能する性質の舞台で、明確な起承転結のあるストーリーではない事。猫に成りきる役者さん達のメイクや体の動きなど、距離をおいてステージ上で見るから映える演出であって、大画面にクローズアップで写すのに向いているとは思えない事。
とはいえ、大好きで何度も繰り返し聞いた楽曲達だし、奇抜な風貌のネコもどきを大写しで見せられるのにも、度々予告編を見る内に慣れてきた(笑)
という事で、音響とスクリーンのいいシアターを選んで鑑賞。
なんだ、十分楽しめたわ!
無論楽曲は素晴らしく、初めて聞く新曲が、違和感なく溶け込んでいた事にも感激。ダンサーさん達の迫力のダンスを、大画面で子細に見られるのも悪くない。
猫の動きを模した人体表現も、アップで見ても、芸術的で職人芸。信愛の情を示すのに、顔や頭を擦り付け合ったり鼻をコツンとする所とか、本当の猫みたいで可愛らしいし、セクシーだったなー。
キャラクターの役回りやシチュエーションのオリジナル要素にも、映画として少しでも物語性を取り入れようという努力の跡が感じられる。
しかしながら、当初の「何故この作品を映画に!?」の疑問は払拭しきれない。
大元が、次々と切り変わるシーンを、観客の想像力で膨らませて楽しむ作品だし、ストーリーの薄さが芸術性として肯定的に受け取れるのも、体を駆使した演技の熱気が直接伝わるのも、舞台ならでは。メイクも動きも演出も、誇張や比喩や簡略化を舞台表現という前提で理解した上で、全体を俯瞰で見られる【芝居】向けに作られている。それを中途半端に映画という形に押し込めたという感じ。全くの別物にしてしまっては舞台ファンの非難を免れないだろうし、致し方ない部分もあるだろうが。
そもそも、CG技術の進歩故か、アニメもゲームも小説も芝居も、何でもかんでもリアル映像化しようという、昨今の傾向自体にいまいち賛同出来ない。自前の想像力で満喫してますのであまりお構いなく、と思ってしまう。
限りある舞台の上に、街角や倉庫や列車を思い浮かべながら見るのが楽しいのだ。残飯漁りやゴキブリ行列をリアルに可視化して欲しい訳じゃないのよ…。
まあ、ミュージカル自体が苦手とか、何であれゴキブリ食べるとか無理という方は仕方ないとして、CATS初めてさんは弱冠の前提を飲み込んだ上で、従来のファンは映画版は映画版として考えられるなら、結構楽しめると思いますよ。