「この着想。素晴しいの一言でした。」アルプススタンドのはしの方 お水汲み当番さんの映画レビュー(感想・評価)
この着想。素晴しいの一言でした。
まったく予想外の素晴しい作品でした。
タイトルからの連想だと、高校野球で勝った負けた努力した、涙と汗と友情と、みたいなスポコン物を想像するかも知れませんが、いやいやどっこい、グラウンドの内側は、ちっとも映らず、戦う選手はひとりも登場しないのです。
考えてみれば、どれほど野球好きな俳優たちをかき集めても、野球の技術と努力に懸けては、プロ野球の2軍選手の足元にも及びません。
俳優が演じるものは、しょせん偽物。
偽物を見て感動しろという方が間違っていたのかも知れません。
野球をめぐる感動劇は、グラウンドの内側ではなく、アルプススタンドのかたすみを舞台に演じられていたのでした。
映画の舞台は、高校野球の地方予選の1回戦。
内野観客席の最上段の端っこの方。
この割り切りと、この着想。
凄いと唸らされました。
シナリオは抜群に練り込まれています。
なにしろ、高校演劇部の全国大会で優勝した演劇を実写化した作品で、その後、何度も何度も劇場上演をしてきたあとの実写化なので、欠点が見当たらないのです。
この映画では、観客は、試合の様子を音で想像するしかありません。
皆が憧れている噂のエース園田君だって、いったいどんな人なのか、最後まで観客の前には現れません。
でも、それでも良いのです。
まったく無名の俳優ばかりが熱演するこの作品ですが、みんな光り輝いています。
主人公の小野莉奈は、カメラを気にしながらの演技がやや残念でしたが、親友を演じる西本まりんの熱演によって、引き立てられていました。
それにしても、みんな、優しい。
「優しい人を演じること」ができるようになった現代人ですが、そんな人たちでも、ほんとうに心の中まで優しいのだろうか、という隠しテーマも込められていたりして、ときに息苦しく、ときに美しく、楽しめる1時間半を過ごさせていただけました。