劇場公開日 2020年7月24日

「映画館で観た“熱い試合”」アルプススタンドのはしの方 ao-kさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5映画館で観た“熱い試合”

2020年8月29日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

最も記憶に残っている甲子園の試合は2009年、日本文理(新潟)-中京大中京(愛知)による決勝戦だ。9回でスコアは4-10。6点を追う日本文理だったが、あっさりと2アウトを取られる展開に誰もが思った。勝負はついたと…。しかし、日本文理はそこから驚異の粘りを見せ、1点差にまで詰め寄る猛攻を見せたのだ。諦めていた観客たちも点差が縮まるにつれて、次第に逆転を信じ、その声援を高めていった。

この映画に関して、もはや言うことは何もない。その名が示す通りアルプススタンドの端の方にいる人々の物語だ。野球は辞めた、ルールもよくわからない、ただ学校の義務として試合を見に来ただけ、そんな生徒たちにスポットを当てる。シュールでユーモラスな会話が物語を作り、グラウンドの熱量とは全く異なる他人事な世界がスクリーンに映し出される。度々口にされる「しょうがない」という言葉は少ししつこくも感じるが、その気持ちは我々観客も心のどこかに感じている言葉を代弁しているに他ならない。

しかし、ただスタンドに座っていようとも、グラウンド上では試合は進む。試合シーンを見せずにこの静と動との対比を描いた脚本の巧さに舌を巻く。自分たちは座ったままで良いのか?動かなくては何も始まらないのでは?2009年のあの決勝戦とも重なって見えてくる。本来スタンドで声援を送る側の人間が、野球のプレーによって逆に激励されてしまう高校野球あるあるをここまで面白く仕上げるとは恐れ入った。アルプススタンドの端から飛ばした声援を吹奏楽部が受け取り、演奏につながる連携プレーの心地良さは本作の白眉。

コロナウィルスのせいで今年は(通常通りの)夏の甲子園も中止となってしまったが、こんな“熱い試合”を映画館で観れたことはこの夏の良い想い出だ。

Ao-aO