「「夢の舞台」に隠れる裏とすみっコの物語」アルプススタンドのはしの方 さうすぽー。さんの映画レビュー(感想・評価)
「夢の舞台」に隠れる裏とすみっコの物語
自分は普段予告やあらすじは一応チェックして観るか判断するですが、今回は珍しく予告もあらすじも一切チェックしない状態で鑑賞しました。
今年の邦画は自分にとって当たりが少ないのですが、高校野球は大好きなので期待値半々の状態で観たのですが、想像以上に面白かったです!
主な主要人物は4人で、野球に全く興味ない演劇部の女子二人、元野球部の男子、そして成績優秀で人見知りな女の子の4人ですが、もう全員がいとおしいです。
面白いのが、野球の応援側の視点である上に主要人物の4人中3人が野球に全然詳しくない人物ということです。
これによって、普段野球を観てない子達がどういう風に高校野球を見てるのかが描かれるので、こうした視点も凄く良い!
また、唯一の野球経験者の男子も野球部を辞めているので野球の応援にはそんなに積極的ではありません。
だからこそ、アルプススタンドという夢の応援席では端っこの方の存在だから、このタイトルなんだとすぐに解りました。
ラストの台詞や4人の存在は、去年話題になったアニメ映画「すみっコぐらし」を彷彿とさせます。
あと厚木先生という鬱陶しいまでに暑苦しい先生のキャラもメチャクチャ面白いです(笑)
リアルな松岡修造を思わせるような劇中の台詞や応援してる様が本当に面白おかしく、かなり好きな人物でした。
ただ、個人的に吹奏楽部員のキャラクター達の描写が少し微妙に感じました。
調べたところ、この子達は元々演劇に無かったオリジナルキャラらしいのですが、入れるならもう少し細かく描写してほしかったです。
そこがこの映画における数少ない「惜しい」と感じる点でした。
しかし、甲子園に出ている「輝いて見える人達」ではなく「見えない人々」に視点を向ける所が何よりも素晴らしいポイントでした。
なお、この映画は高校野球を題材にした内容でありながら試合の情景は一切登場せず、登場人物達の会話や歓声のみで進んでいきます。
こういった構成は、やはり原作における舞台演劇ならではの手法でとても面白いです。
普段の映画でメインとなる場面をあえて映さず、殆ど会話劇で進行していく映画構成は、タランティーノの「レザボア・ドッグス」を彷彿とさせました。
映画自体も、高校野球のようにどんどん熱くなる展開になっていくのですが、会話劇から出てくるテーマも見事でした。
「努力をする事」と「諦める事」がどちらが大事なのか、というのもなかなか考えさせられる難しいテーマですね。
この話で、ある出来事を思い出しました。
先日プロ野球のロッテ対日本ハムの試合を観ていまして(自分ロッテファンです)、その日は6-8でロッテが勝ったのですが、その試合がなかなかドラマチックでして!
まず、5回表(日ハムが表)時にロッテが1-5で負けてて「今日は負けたな」と諦めてました。しかし、その裏にロッテが3人もホームランを打ち、次で何と追い付いて7回に5-8まで開いたんです!
そのあとに、日ハムは最終回で1点返すのですが、弟が母に「何で3点差なのに諦めないの?」と聞いたら「負けても1点多く取った方が次頑張ろうと思うんだって」と返ってきました。
なるほどなぁと思いました。
映画終盤での出来事がまさしくそれを物語ってるのかなと思います。
最終回の物語で、登場人物の誰もが後々の人生に影響を与えてると思うんです。
野球って本当に何が起こるか解らないですよね。
思うのが、諦めずに努力をすれば勝っても負けても後悔はあまり残らないと思うんです。
そういった事を考えさせてくれる内容であり、野球と映画における会話劇が好きな自分としては大満足な映画でした!