「ミュージカルではないインドの音楽映画」ガリーボーイ バフィーさんの映画レビュー(感想・評価)
ミュージカルではないインドの音楽映画
実在するムンバイ生まれのラッパーNaezyの生い立ちと、Divineとの出会いで音楽活動を開花させていく様子を映画化したインド映画でミュージカル作品ではない、伝記兼音楽映画として仕上がっている。
フィクションも含まれているだろうと思うが実際のNaezyのことを知らない日本人にとって、どこがフィクションでどこが実話ベースなのかが、いまいち分からないだけに、ムンバイ映画祭で最優秀短編映画賞を受賞したNaezyの人生に迫ったドキュメンタリー映画『Bombay 70』を合わせてリリースしてほしかった。
将来が決められレールの上でしか生きることができないという貧困層の負の連鎖、抜け出せない現実の描き方は時代や国が違っても似ているのだが、決定的に変わったことは「YouTube」の存在だろう。
YouTubeは才能を披露する圧倒的ツールとして自然に物語に溶け込んで描かれることになったということ。
貧困層とは言ってもスマホとタブレットは持っているムラドは、貧困層なのかという疑問は少しあるが、そのツールをフル活用するところは実に現代的である。
前半では、ムラドが音楽的才能を漂わせるシーンがあまりなく、いつから音楽映画的な発展を見ることができるのかと思わされるほど、なかなか焦らされるて、ムラドの置かれている家庭環境や登場キャラクターの性格なんかをじっくりと見せて下準備をしておいて、後半に進むにつれて一気に音楽映画的要素が爆発するという温度差を巧みに操った作品で3時間近くある上映時間を長く感じさせないどころか、ラップシーンをもっと観ていたいとも感じさせてくれる。
MCシェールが凄くいい奴でムラドだけ最終候補に残ったときも、妬みではなく、友の才能が認められたことを単純に喜びサポートに回るMCシェールを見事にいい人オーラ出した状態で演じきるシッダーント・チャトゥルヴェーディーをこの映画で凄く好きになった。他の作品も観てみたいのだが、日本ではリリースされていない作品ばかりだった。
日本ではインドの音楽に触れられる場が極端に少なく、タワーレコードに行っても少ししか置いていないだけに、映画には多くのインドのアーティストがカメオ出演しているのだが、正直言って誰がカメオ出演しているのか全くわからない。それを知っていると音楽映画としてプラスで楽しめる要素であるのに勿体ない気がしてしまう。
最近、日本がインド映画=ミュージカルという印象を観客から抜けさせようとしていることで、逆にミュージカル映画を配給しなくなってしまって、インド・ミュージカル・ロス状態に陥っている日本の映画史上だが個人的には、もっとミュージカル映画を配給してほしい。