「最高の舞台で王道のジャンル映画、間違い無し。」ガリーボーイ takfさんの映画レビュー(感想・評価)
最高の舞台で王道のジャンル映画、間違い無し。
冴えない生活を送るラッパーが現状から抜け出そうともがく話は今やひとつのジャンルと言えよう。
「8 Mile」は言うに及ばず、「パティ・ケイク$」や日本からは「サイタマノラッパー」といった名作が輩出されているが、本作もこのジャンルにおける正統派代表作のひとつとして語り継がれることであろう。
本作は舞台がインドだけに構造的により複雑で、主人公を取り巻く苦境の深刻さは頭抜けており、ドキュメンタリーとして見ても面白い。貧困成り上がり物としてはこれ以上最適な舞台は無いだろう。
とはいえ作中のバイオレンス描写は控えめで、爽やかさすら感じさせる上品で見やすい安全安心な設計になっている。
気になる弱点としては、持たざる者がのし上がるストーリーにしては主人公のスペックがのっけから少々高すぎる。
なんせ出演者の誰よりもハンサムでマッチョな肉体を誇りユニークな友達に囲まれあろうことか超カワイイ医者の娘に激烈に愛されているというなかなかの強者ぶりである。おまけにイカしたリリックをライムする才能まで持ち合わせているという、これだけ恵まれているのだから多少の理不尽な現実は我慢しろと言いたくなるが、本作の登場人物は妬み嫉みでドロドロすること無くみんな良い奴なので、見ているうちに巣立つ雛鳥を見守るかのごとく温かい心境にさせられる。
上映時間154分と少々冗長ではあり、だいたい予想される程度の困難を経て想像通りのオチに向かっていくのだが、それでもダレずに観ていられるのは、最高にキュートな主人公の彼女サフィナちゃんの存在が大きい。あどけなさが残るルックスとは対照的に、浮気相手をビール瓶でぶん殴るほどの激情を見せるなど、近年流行りの強い女性キャラの中でも最強の戦闘力ではなかろうか。彼女が出てくる場面は予測不能でどのシーンも見ていてとても楽しい。
音楽的に素人な私には馴染みの無い言語も相まって主人公の非凡さはよく分からないが、音楽の楽しさは万国共通、十分に盛り上がることができる。
ラストのキレも良く、映画館で観ておくべき見応えのある良作。