「俺の時代だ!」ガリーボーイ KinAさんの映画レビュー(感想・評価)
俺の時代だ!
劇場はフロアと化し、唸り響くビートと弾け飛ぶラップミュージックに身と心を任せてノリノリで観られる、最高の映画。
しかし、単なるラッパーのサクセスストーリーにあらず。全ての人へ向けた人生そのものの映画だった。
人間関係の諸々やダークな寄り道や家族との亀裂などを、たっぷりと時間を使って丁寧に盛り込んでくれる。
登場人物が感じている苦しみも辛さも嫌悪感も、もちろん喜びも楽しさも、そのままストレートに身を貫いてくる。
厳しい格差の虚無の中、みんなガチガチに縛られて生きていた。
縛られるしか生きる術はなくて、そうする意外の道を知らない、知ろうともしない人のなんと多いことよ。
でもそういうものなんだよね。
下階層の人間は下を見ていろと、上階層の人間は上を見続けろと。
ムラドの車中のライムと、裕福な娘の涙との対比が印象的だった。
たぶんきっと、その中身は真逆だけど同じ方向を向いていると思う。
中階層くらいなのかな、サフィナの家の独特な価値観はかなりキツかったけど興味深くもあった。
医者の道を行く娘をサポートする反面、プライベートを締め上げて激しく糾弾する姿勢。寛容と厳戒の不思議なバランス。
俯くしかない人生、上など見てはいけないと呪いをかけられたようにキレまくる父親がひたすら悲しい。
ただ、スラムの下僕の生活を息子にはさせたくないという気持ちは痛いほど理解できて、別に間違ってはいないんだよなと思った。
むしろムラドの生活はスラムの中では恵まれた方なんだよね。
親の心子知らず、子の心親知らず。
這い出す夢を見て何が悪い?
どのチャンスを掴むかは自分次第。
わりとキョドるタイプのムラドが「ガリーボーイ」になる瞬間、目はギラギラ輝き堂々とラップぶちかましてくれるのがとてもかっこよかった。
場を踏むごとにどんどん自信がつき、父親にも盾つくようになったその姿の頼もしいことよ。
ラップバトルのシーンは緊張感で心臓が縮み上がる。
分かりやすいヒールのライバルはいなかったけれど、それまでの積み重ねで何が起こっても不思議じゃない環境が、ギリギリのところを責めてくる。
ディスり合いの言葉の応戦って、その場だからこそだってわかっていてもちょっとグサグサ来るじゃない。
鼓動上げてこ。終わったら握手してこ。
友人や恋人が良い人揃いでとても安心した。
シェールとムラドの反応の差に泣いてしまう。めっちゃ良い兄貴分じゃん…大好きだ!!
スカイの甘い刺激もサフィナの凶暴な愛くるしさもドキドキするアクセント。
この辺の揺らぎもバランス良かったな。結構本気でハラハラしたけどね。
サフィナの大胆な策が好き。
簡単に堕ちてしまえるこの世界。
のし上がり輝く世界に飛び込むも夢、それを応援するも夢、サポートするも夢、輝く人を見て味わうも夢。
ガリーボーイを主役に置いた映画だけど、みんながみんなラッパーにならなくても良いんだと思えた。
主役じゃない人たちの人生にもさりげなく、でもしっかりと意味を込めてくれたことが嬉しい。
王道サクセスストーリーの楽しさとヒンディーラップの快感と繊細でリアルなキツさが交互にやってきて、非常に掻き乱された。大好き。
154分という長尺。そこに生きる人たちの叫びや訴えをひしひしと感じつつ、エンタメとしてちゃんと楽しめる。
どうかみんな、楽しい人生を。私も含めて。
当たり前だけど、音楽が本当に本当に本当に最高だった。サントラずっと聴いてる。
ヒップホップってやっぱり良いなー!ガンガンに音浴びて踊りたいなー!
NASがこの映画の中でスターの象徴だったのが面白い。人選良すぎ。
GULLY BOY!!GULLY BOY!!GULLY BOY!!
Apna Time Aayega!!